匠雅音の家族についてのブックレビュー     アンネナプキンの社会史|小野清美

アンネナプキンの社会史 お奨度:

著者:小野清美(おの きよみ)−−宝島文庫、2000(宝島社、1992)、¥648−

著者の略歴−岡山県出身。専門科目は母性看護学。1980年より千葉県立衛生短期大学で16年間教鞭をとり、1997年より香川医科大学医学部看護学科の教授となる。2000年4月より岡山大学医学部保健学科看護学専攻の教授となり現在に至る。1970年にメディカルトリビュン社実践看護婦部門第6位受賞。1988年に国際障害者年日本推進協議会「障害者の十年」中間論文の部、優秀作受賞。著書に『自立をねがう性のしつけ』(教育史料出版会)、『女のトイレ事件簿』(TOTO出版)、『ナプキン先生の素敵なマンスリー・デイを』(星雲社)など。

 助産婦だった筆者が短大の教員になり、母性看護学を教えるようになった。
そして、貧弱な生理用品にかんする知識に唖然として、生理用品の研究にのめり込んだという。
研究対象が研究対象だけに苦労も人並みではなかったらしい。
使用済みの生理用品を検査のために集めるのは大変だったという。
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 細菌学的に観察するために経血で汚れたナプキンを集めてくることを指示したときほど、 学生たちに顰蹙を買ったことはない。P13

 女性でなければなしにくい研究だが、これまた不可欠の研究である。
おむつやコンドームなど、下半身にかんするものの研究はいずれも誤解されやすい。
が、生理用品の研究はとりわけ厄介なものだったろう。
それは想像に難くない。

 当たり前のことだが、近代的な生理用品が発売される以前から、成人女性には生理があった。
ではその処理はどうしていたのだろうか。
今日のような生理用品が作られる前は、「お馬」と呼ばれる越中褌のようなものに当てものをして使っていたようだ。

 着物やスカートのように、股間に密着しない衣類であれば、それでも問題はなかったかも知れない。
しかし、そうした形態のものは、完全に経血を吸収することは難しかったに違いない。
途上国を旅行していると、ズボンをはいた女性の股間が、経血で汚れているのを見ることがたまにある。

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 現在、工業製品として生産される生理用品は精巧に出来ており、失敗することはないようである。
しかし、ここまで来るにはやはり長い歴史があった。
長年多くの人たちによって改良が重ねられて、現在のような形になってきた。
しかし、その歴史はなかなか人の口には上らない。
本書は、生理用品の歴史から始まって、画期的な製品だった1961年に発売された「アンネナプキン」を中心に、現在までの生理用品を概説している。

 アンネナプキンは、酒井泰子という女性によって設立されたアンネ社から発売された。
それまで日陰者だった生理用品が、アンネナプキンの登場によって、表に出てきたという。
性を開放的に扱えるようになったが、わが国の生理用品の歴史は40年である。
まだまだ生理用品は他の商品とは違うという。

 しかし、アンネナプキンの酒井泰子を除くと、生理用品の研究・改良・販売に挺身してきたのは、すべて男性だったというのは衝撃的な記述だった。
しかも酒井が社長になったアンネ社といえども、95%の資本を出資しスポンサーとなったのは、ミツミ電機の社長・森部一である。

 本書を興味深く読んだが、衛生的な生理用品がなかった時代の苦労がしのばれた。
また、男性も女性たちの助けになっている安堵感もあった。
社会的な男女の平等化と同様に、具体的な生活のレベルでの男女の等質環境化も追求されるべきだろう。
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参考:
増田小夜「芸者」平凡社 1957
スアド「生きながら火に焼かれて」(株)ソニー・マガジンズ、2004

田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002

まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現代思想社、1984

モリー・マーティン「素敵なヘルメット職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」宝島文庫、2000(宝島社、1992)

熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、2004
大塚英志「「彼女たち」の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952
スーザン・ファルーディー「バックラッシュ」新潮社、1994


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