匠雅音の家族についてのブックレビュー   不幸にする親−人生を奪われる子ども|ダン・ニューハース

おひとりさま お奨度:

著者:岩下久美子(いわした くみこ)  中央公論新社 2001年 ¥1400−

著者の略歴− 青山学院大学法学部卒業。99年2月から、女性が一人で快適に外食したり、旅をすることを応援する「おひとりさま向上委員会」を主宰。現代女性の価値観の変化や新しい男女関係のあり方を、独自の視点から取材・考察している。食文化にも造詣が深い。また、日本におけるストーカー研究の第一人者としても知られる。2000年3月より、警視庁「ストーカー問題対策研究会」の委員を務め、東京都のストーカー行為防止条例の策定に携わる。
現代社会に特有の”コミュニケーション不全”の人間関係をテーマに執筆を続けると同時に、女性が魅力的に生きるためのスキルを追求。時代感覚に則した女性論を展開している。著書に「人はなぜストーカーになるのか」(小学館/文春文庫PLUS)、「ヴァーチャルLOVE」(扶桑社)など。

 お一人様という言葉は、旅館や飲食店などの1人客を対象にして、昔からあった。
しかし、筆者は<おひとりさま>という言葉を、下記のように定義し直した。
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おひとりさま

1 「個」の確立ができている大人の女性
2 「自他共存」していくための、ひとつの知恵
3 仕事も恋もサクセスするために身につけるべき生き方の哲学
4 individual
5 通常は、一人客に対する呼称


 しかも、<おひとりさま>とは、シングル(独身)主義・非婚提唱・自閉・利己主義とは別義だ、≪注≫記している。
≪使用例≫として、「『おひとりさま』なら、誰かと一緒の時間もひとりの時間も同じように楽しめる」「これからは『おひとりさま』の時代」だという。
 
 シングルというと独身という意味が強いが、おひとりさまは結婚とは無関係の話で、1人でいる女性のことらしい。
筆者は<おひとりさま向上委員会>なるものを立ち上げたが、2001年にタイ西部プーケット島で、高波にさらわれ水死してしまったという。
若くしての不幸で、残念である。

 我が国では男性が主流だったせいで、新しい動きは女性のものとして登場することが多い。
独婦連以来のながれであろうか、とりわけ1人を強調するものは、女性専用となりがちである。
単身研もそうだったし、1人者の共同墓所も、女性専用といった感じがする。
我が国のフェミニズムが、歪んでしまったせいもあるが、どうも1人者の男女乗り入れが少ない。

 恋も…と本書はいいながら、その相手である男性の<おひとりさま>には、あまり関心がないようだ。
もっとも、筆者は結婚していたのだから、これはボクの偏見かも知れない。
しかし、1970年代から単家族をいってきたボクとしては、個人の自立は当たり前のことである。

 筆者は、<おひとりさま>らしい具体的行動をあげる。
 
 女性にも「女の粋さ」というものがあってもいいのではないか。たとえば、それなりの蕎麦屋で蕎麦をいただく前に、板わさなどを酒肴にしてゆるゆると一献……なんてことが普通にできるようなら、一人前の「おひとりさま」といえましょう。P27

 これって、オヤジたちがやってきたことに過ぎない感じもするが、女性はできなかったんだろう。
女性には収入がなかったから、1人で外食することが不可能だった。
いまでは女性も稼ぐから、板わさを肴に一杯やるくらいわけもない。

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 焼鳥屋などにも女性が進出してきたが、若い女性のグループが多い。
オヤジたちのあいだに交じって、若い女性が何人かで飲んでいるのを見かける。
確かに、オヤジたちのあいだに若い女性が、1人で混じるのは難しいかも知れない。
しかし、板わさを肴に一杯なんてことは、若い男性でもやらないのだ。

 若い時代というのは、何ごとも修業の時代なのである。
飲み屋で様になるのも、いくつかの失敗もして、授業料を払って、身につけていくものだ。
若いうちに、1人姿が様になるなんてことはない。
だから、女性は引っ込んでいるというのではない。
むしろ、失敗を恐れずに、どんどんとやってみるべきなのだ。

 幸い我が国は、安全である。
飲み過ぎて、トイレに駆け込んでも大丈夫だし、終電を乗り過ごし、歩いて帰っても大丈夫である。
板わさなどを酒肴に飲んでいるような男は、それはそれは多くの失敗をしてきたはずだ。
失敗こそ人間を作ってくれる。
女性たちも失敗を恐れることなく、果敢に遊びまくって良い。

 何なんだよ、何で涙をいっぱい溜めて食事するんだよ。帰りなよ。−みんな心の中でそう思っている。もしかすると、誰かとの約束をドタキヤンされたのかもしれないが、いずれにしても、彼女は即刻レストランを出て、家に帰るべきだったと思う。
 見苦しい「おひとりさま」は周囲に悪い影響を及ぼす。”かわいそう光線”を振りまくことで、他のお客さんに迷惑をかけていることに気がつかない。そういうデリカシーのなさが問題なのだ。周囲のテーブルにも、どんより気分を伝染させる。そんな見苦しい「おひとりさま」は、悪である。P29


と筆者はいうが、失敗をしても良いのだよとボクはいう。
楽しい奇麗だけが人生ではない。
涙を見せながら食事しても、一向にかまわない。
むしろ周囲の人たちには、悲しい人をそっとしてやるくらいの器量はある。

 筆者は女性として苦労してきたようだが、1人で仕事をするのは誰でも苦労するものだ。
むしろ女性だからがゆえに、物書きの仕事が入ったことだってあるだろう。
若い時代には苦労をしても良いのだ。

 「あちらの女性にギムレットを……」な〜んて、見知らぬ男性から言われたら、モテてる! と思うかもしれないけど、実はコレ恥ってこと。つまりは「おひとりさま」失格。自分のことがしっかり見えていない女性というのは、男性に声をかけられたことを自慢気に話したりするけれど、それは逆に悲しい。その男性がナンバ目的だったとしたら、あなたが物ほしげな女に見られた証拠である。
 男に気安く声をかけられるようじゃあ、まだまだ「おひとりさま」への道は遠い。P56


 この意見には大反対である。
男から声もかからないようじゃ、人間として魅力がないのだ。
また、見知らぬ女性に、美しくお酒をおごるのも、並大抵の人生修業では出来ないことだ。
女性からも、「あちらの男性にギムレットを……」と言えるように、人間の幅を広げるべきである。

 個の自立には、まったく賛成である。
いつも群れているのは、醜いと思う。

筆者のいうニュワンスは理解するが、筆者がまだ若かったということだろうか。
冥福を祈ります。   (2010.3.30) 
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参考:
下田治美「ぼくんち熱血母主家 庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」 筑摩書房、1994
江藤淳「成熟と 喪失:母の崩壊」河出書房、1967
増田小夜「芸者」平凡社 1957
岩下尚史「芸者論」文春文庫、2006
スアド「生きながら火に焼かれて」(株) ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書 館、2001
末包房子「専業主婦が消える」 同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、 1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジ ンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワー クス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、 1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」 大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書 房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現 代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職 域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」 宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働 と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」 とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新 潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参 画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」 ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、 1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべ きではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」 東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」 角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、 2004
大塚英志「「彼女たち」 の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」 有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、 2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、 2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」 水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、 1972
水田珠枝「女性解放思 想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書 店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、 1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」 思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書 店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト 経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」 平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」 現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の 水書房、1987
末包房子「専業主婦が消える」 同友館、1994
鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、 2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社 会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」 二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、 2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、 1952
スーザン・ファルーディー「バックラッシュ」新潮社、 1994
井上章一「美人論」朝日文芸文庫、 1995
ウルフ・ナオミ「美の陰謀」TBSブリタニ カ、1994
杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、 1994
ジョンソン桜井もよ「ミリタリー・ワイフの生活」 中公新書ラクレ、2009
佐藤昭子「私の田中角栄日記」 新潮社、1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文 庫、2003
光畑由佳「働くママが日 本を救う!」マイコミ新書、2009
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」 草思社、1997
奥地圭子「学校は必要 か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
フィリップ・アリエス「子 供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもから の自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
ジェシ・グリーン「男 だけの育児」飛鳥新社、2001
末包房子「専 業主婦が消える」同友館、1994
熊沢誠「女性労働 と企業社会」岩波新書、2000
ミレイユ・ラジェ「出産の社会史  まだ病院がなかったころ」勁草書房、1994
匠雅音「核家族か ら単家族へ」丸善、1997

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