著者の略歴−結婚前の本名:三浦 美紀(みうら みき)−1965 年5月8日生まれ−は、静岡県清水市(現静岡市清水区)出身の漫画家。自身の少女時代をモデルとした代表作『ちびまる子ちゃん』の主人公の名前でもある。Wikipediaから 本書は、本サイトが扱うには、ちょっと違和感がある。 しかし、筆者の深淵な思考に感動した。 天才だと感じたので、敬意を込めて掲載させていただく。 筆者の天才さは、知る人にはすでに知られていたのだろう。
21話からなる本書は、そのすべてが変な話ではある。 しかし、いずれも人間の機微を微妙についており、深く考えさせるものばかりである。 これを哲学と言わずして何と言おう。 もちろん漫画として、娯楽としても充分な力をもっている。 それぞれの話が、基本的には完結している。 そのため、本書全体を一概に論じることは難しい。 たとえば、「にしやまがいるの巻」をみてみよう。 とある会社の前野部長が、部下の西山に仕事を頼む。 すると西山は、ただちにその仕事を終わってしまう。 あまりに早いのに驚いていると、西山が右にも左にもいるように感じる。 徐々に西山がふえていく。 家に帰れば、息子も西山になっている。 全員が西山だから、すべて同じ1人の人格である。 誰も喧嘩などしないし、仲良く和やかに暮らしている。 最後には、西山になっていないのは、前野部長だけになってしまう。 そこで、前野部長は、和やかな西山たちに憧れ、自ら進んで西山になっていく。
人間の数としては、たくさんいるが、西山という人格は1人である。 だから、「西山同士は仲がいい」し、「オレ以外の全世界が西山になっていた」ので、前野部長も西山になっていく。 西山になるには、西山の胸にどんと飛び込めばいいのだ。 前野部長は、少しの気恥ずかしさをもって、西山の胸に飛び込んでいく。 前野の奥さんも西山になっている。 彼は奥さんも西山の胸に抱きついたのか、と複雑な心境で、この話は終わる。 筆者は、現代社会を個性が薄くなっていく、と感じているのだろう。 近代社会では、一般には個性があることを是とする。 個性のない人間は、近代社会では評価が低い。 しかし、筆者はそれを必ずしも肯定しない。 全員が同じ人間になれば、同じ人格なのだから争いもなく、これは一種の宗教でもあるが、平和だろうと考えているに違いない。 この話は、たった8ページの短編だから、壮大な叙事詩が展開されているわけではない。 しかし、「えいえんなるじんせいの巻」といい、壮大な物語を輪切りにして、その断面を見せられているようで、筆者の差しだす全世界を充分に感得できる。 常人には想像もつかない着想で、とても驚かされた。 さくらももこと言えば、「ちびまるこちゃん」で有名である。 その高名さは今さらだが、本書のような哲学書を書いているとは、想像もつかなかった。 彼女は、いま東京新聞に連載しているが、これも独特のユーモアがあり、愛読している。 (2008.9.19)
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