匠雅音の家族についてのブックレビュー      売春論|酒井あゆみ

売 春 論 お奨度:

著者:酒井あゆみ(さかい あゆみ)   河出文庫 2010(2005)年 ¥578−

著者の略歴−1971年、福島県生まれ。上京後、18歳で風俗の世界に入り、ファッションヘルス、AV女優、ホテトル、性感マッサージ、契約愛人業などを経験する。著書に『東京夜の駆け込み寺』『眠らない女 昼はふつうの社会人、夜になると風俗嬢』『人妻風俗嬢』『セックスエリート 年収1億円、伝説の風俗嬢をさがして』等多数。

 本サイトは、売春を肯定している。
セックスにお金が介在しても、当人たちが合意していれば、良いではないかと考えている。
売春を非合法として、取り締まる必要はないと思う。
しかし、売春を奨励しているわけではない。
なぜなら、売春は割りの悪い職業だと思うからだ。
生涯賃金を比較したとき、売春は低賃金労働となるだろう。
だから、売春以外の職業を探すことをすすめるのだ。

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 本書を読んでいて、まともな売春論が、やっと上梓されたという感じである。
売春に関して書かれたものは、売春経験者が書いてはいない。
多くは大学フェミストなどが、イデオロギー的に売春を否定しているだけだ。
本サイトでは、ジャネット・エンジェルの「コー ルガール」や、森光子の「吉原花魁日記」などを取り上げてきた。

 「コー ルガール」はアメリカの話しだし、「吉原花魁日記」は人身売買だった大正時代の話だ。
もちろん人身売買には大反対だし、本人の意志に反する強制には、断固反対する。
どんな職業でも、強制されての就業には反対である。
しかし、お金を稼ぐ以上、イヤなことがある。
職業は楽しいばかりではない。
売春という職業は、ちょっと特殊な目で見られている。

 売春を職業としていた筆者は、最近の風俗を見て、嘆くコトしきりである。

 個人差がありますが、今のヘルス店での平均日収は約二万円。私が働いていた十数年前は約五万円でした。このように風俗嬢たちの稼ぎが落ちてしまったのは、お客の数が減ったからではありません。そこで働く風俗嬢も風俗店も増えすぎたのです。需要が増えず供給がどんどん過剰になれば値崩れを起こします。それを避けるには付加価値をつけて価値を維持するしかありません。実際一部で価格破壊が起き、質の悪いお客、例えば金額以上のサービスを要求するような身勝手でウルサイお客が増え、女の子は禁止行為にも耐えなければならず、儲からないうえに精神的にも肉体的にも限界になる。そうなると女の子がリスクの少ない店へどんどん移ってしまうため、店の方も女の子の確保が大変になるという悪循環現象が起きる。P16

 セックスのハードルが低くなり、恋愛や結婚とは関係なく、セックスするようになったこと。
また、素人の女性が、かんたんに売春に走るようになった。
そのため、供給側が過剰になってしまったこと。
などなどの理由により、売春はけっして良い稼ぎの仕事ではなくなった。
にもかかわらず、女性たちはいざとなったら、身体を売れば良いと考えている。

 今の女性たちは、若いうちは本当にチヤホヤされる。自分が評価されたことがない。
そのため、ちょっと可愛くてスタイルでも良ければ、若いというウリで自信満々である。
それはそうだろう、自分のはいたパンツですら、お金になった時代があったのだから。

 しかし、売春の世界は厳しい。
売れる女性と、売れない女性が、画然としてしまう。
若いだけ、美人なだけ、スタイルが良いだけでは、けっして高級は稼げない。
何度も指名がかかる女性と、お茶を引く女性が、発生してしまうのだ。
そこで女性は、自分の売れ具合を否応なく知らされてしまう。
いまではAVにでてくる女性たちは、みな美人でスタイルがいい。
胸が大きいだけではなく、ほっそりしてさえいる。

 売春は完全能力給の世界である。
たしかに1億稼ぐ女性も、少数ながらいる。

 「風俗嬢やるなら『一本』は立てないと」
 これは、私が風俗嬢をしていたころの信念だった。「一本」というのは一千万円のこと。
しかし、いるところにはいるものです…。「億」単位のカネを貯めた風俗嬢が。
 意外にも、そういう女性たちはすべてが東京以外の地方都市の在住者。その一件から、「都会で売春はやるべきではない」という持論を持つようになりましたよ。だって、この風俗不況の中、億だよ、億!
 億を稼いだ(ただ単に長〜く勤めてるだけとも言う)女性は確かにいる。しかし、それを堅実に貯めてる女性は滅多にいない。いや、実際にそうでも、そんな話は出さないか。まあ、とにかく、「億ドル」は現在でも存在する。
 でも、都内の風俗嬢は、なぜ「億」を持てないのか?   P109


 筆者は都会で一億稼ぐには、ワンルームに住んで自炊する生活が不可欠だという。
ケチケチ生活をしても、全員が一億稼げるわけではないという。
当然だろう。
1人の客が2万円支払ったとして、女性の取り分は6割りである。
¥12,000×3人として、一日36,000円である。
ここからさまざまな経費が引かれていく。
1日3万円の稼ぎとしても、200日働いて、600万円にしかならない。

 人妻や熟女売春が流行ってきたといっても、中年になれば稼ぎは減る。
しかも、売春には病気というリスクがある。

 ソープランドのように「組合」などの決まりで強制的にやっていればいいのだけれど、非本番系の業種であるデリバリーヘルスなどは、そういった「組合」がない。だからこそ危ない。もちろん、エイズがすぐに感染するような病気でないということで深刻に考えられないという感覚も分かります。しかし、性病がエイズだけでなく、淋病や梅竃、性感染症などというように数えられないほどあることも忘れてはなりません。P147

 風俗界の競争が激しい。
そのため、非本番系の風俗でも、本番をするのは常識となっているという。
筆者はかつて売春婦だった。
そして、売春を否定してはない。
しかし、本書を読むと、いかに売春が低賃金労働だか、よくわかる。
そして、売春を職業にしてしまうと、そこから抜け出ることが難しい。
親バレにおびえながら暮らし続ける。
そうした売春従事者の日々を綴っている。
 
 女を商品にできる才能がない女性は、売春をしてはいけない。

と、筆者は本書を結んでいる。  (2010.5.14) 
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参考:
信田さよ子「脱常識の家族づくり」 中公新書、2001
杉本鉞子「武士の娘」 ちくま文庫、1994
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめん どくさい」ソニー・マガジンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」 メディアワークス、2001
岡田秀子「反結婚論」 亜紀書房、1972
岸田秀「性的唯幻論序説」 文春文庫、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エ ロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文 庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」 飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋 愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」 宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河 出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」 池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュア ル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」 光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」 明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」 光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書 林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房 新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一 書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、 1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメ リカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青 弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーの カーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世 社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談 社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」 筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」 ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラー ズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文 庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女の セックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文 庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、 2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベ ストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出 版、1985
謝国権「性生活の知恵」 池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓 社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一 書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、 1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちく ま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」 紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、 2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮 文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品 社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋 社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、 2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」 幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」 光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」 文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」 明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、 2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
白倉敬彦「江戸の春画」洋泉社、 2002
田中優子「張形−江戸をんなの性」 河出書房新社、1999
パット・カリフィア他「ポ ルノと検閲」青弓社、2002
酒井あゆみ「売春論」河出書房新社、2005

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