匠雅音の家族についてのブックレビュー      エロスの革命|ダニエル・ゲラン

エロスの革命 お奨度:

著者:ダニエル・ゲラン   太平出版社、1969年 ¥850−

著者の略歴−フランス人

 アナキストであるダニエル・ゲランの、性に関するエッセイを集めて、日本版として上梓された。1969年は学生運動が、もっとも過激だった時代で、筆者のようなスタンスは大歓迎されていた。
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エロスの革命 (1969年)

 フランスの5月革命では、<革命をすればするほど、愛の営みをしたくてたまらなくなる>と落書きされたものだ。
しかし我が国では、学生運動が性の革命へとつながらずに、むしろ男尊女卑がそのまま持ち込まれていた。
そのため、活動家は男性、救援部隊は女性といった、性別役割分担ができてさえいた。

 学生運動における性別役割分担は、当時の我が国が高度成長経済下にあり、核家族化が急速に進行していたからだ。
残念ながら、政治の幅は生活より狭いので、学生運動は核家族の性別役割分業を引きずってしまった。
その名残が現在まで尾を引いている。

 我が国は、核家族内での性別役割分業から、なかなか抜け出せない。
そして、最悪なことに、セックスを正面から肯定できない。
我が国には、性の解放がなかったかのようだ。

 本書の前半は、キンゼイレポートの紹介である。
筆者はキンゼイに社会学的な視点が、欠けていると言ってはいる。
しかし、当時の状況の中での、キンゼイの仕事に絶賛に近いものを送っている。

 近年、女性のセックスへの距離が縮み、オルガスムの体感頻度が上がっているという。
 
 彼(キンゼイ)は、女性の心理的な刺激に対する反応が社会階級ごとに異っていること、いかなる面でその反応が社会的に規制を受けているかを証明するものをも確認している。さらに重要な事実は女性の不感症がここ40年間にいちじるしく減っていること、結婚後一年間は性行為をいやがっていた女性の数が、1909年以前生まれの女性では33パーセントであったものが、1909年以後の生まれでは22ないし23パーセントに減っていることを認めていることである。このことは、女性における性欲の目覚めの遅れがいかなる生理的な<不変性>にも起因しているわけではなく、それは本質的に文化的なものにかかわっていることを示すものであると見られる。P68

 キンゼイは昆虫学者だったから、どうしても生理的なアプローチをしがちである。
それに対して、筆者は社会学者なので、キンゼイレポートのなかに、社会学的な指摘をしていく。

 キンゼイレポートは「男性の性行動」が1948年に、「女性の性行動」が1953年に出版されている。
当時のアメリカは、非常に禁欲的であった。
48州のうち35州までが、結婚前のセックスを処罰していた。
そのため、アメリカに特有の挿入に至らないペッティングとか、ネッキングが流行っていたのである。

 上記のような時代背景があった中での、レポートの上梓だったので、現在から見ると大きな制約があった。
それを承知で、筆者はキンゼイにエールを送っている。

 本書を読むと、戦後、性革命があったと言われるが、性に対する考え方が本当に変わってきたことがわかる。
人々は女性も含めて、セックスを謳歌するようになった。
また、結婚という枠組みのなかでしか、セックスができないと言うこともなくなった。
本書が1969年に上梓されていることを考えると、隔世の感がある。

 本書の後半は、同性愛について述べたものである。
プルードン、フーリエ、シェークスピア、アンドレ・ジイド、ライヒなどを取り上げている。
この時代には、まだ我が国ではゲイが登場していなかった。
やはりフランスの状況は、進んでいたと思わせる。  (2010.5.31) 
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参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、 1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実の ゆくえ」原書房、2001
顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操っ た異形の集団」徳間文庫、2000
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国  T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
ダニエル・ゲラン「エロスの革命」太平出版社、1969
フランチェスコ・アルベローニ「エ ロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」 飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚 道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘 ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河 出文庫、1999
謝国権「性生活の 知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽 しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのく よばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這 いの民俗学」明石書店、1984
福田和彦「閨の睦言」 現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」 河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系 譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「イ ンターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメ リカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春 という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーの カーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原 書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公 認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」 筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないは ワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」 KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」 河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスム スのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガス ムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」 光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」 原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、 2001
ジュリー・ピークマン「庶民た ちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の 政治学」ドメス出版、1985
山村不二夫「性技−実践講座」河 出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」 文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性か らの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系 譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化 の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中 世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・ イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」 幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」 新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品 社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋 社、1984 
高月靖「南極1号伝説」 バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、 1995
佐々木忠「プラト ニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのく よばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜 中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這 いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平 凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」 草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」 作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノロー グ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」 岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」 文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方 法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」 中公文庫、2006

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