匠雅音の家族についてのブックレビュー      母系家族のすすめ|中尾靖之

母系家族のすすめ お奨度:

著者:中尾靖之(なかお やすゆき) 東京図書、2004年 ¥1500−

著者の略歴−1945年生まれ。1972年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。1972年から東京都職員(教育庁)。2004年3月同(総務局統計部)退職。2004年社会経済研究所“ソーシャル・トレンズ”設立。日本地域学会会員、(社)経済企画協会会員。【主な著作】「東京の消費構造−東京都生計分析調査」法政大学日本統計研究所オケージョナルペーパーNo.8 2002年10月、「勤労者世帯の消費の現実−年代別消費行動の分析」ESP(Economy Society Policy)JULY2003No.375 編集協力内閣府、編集発行〈社)経済企画協会

 データで考えると副題が付いているので、どんな本かと思って読んだら、とんでもない本だった。
結局は、結婚しても女性は親のもとにとどまり、男がそこに通うのだという。
そうすれば、女性は親の援助があるから、仕事にも子育てにも充分に能力が発揮できるという。
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 少子化で、子供が少なくなり、兄弟が少なくなっている。
一人っ子が多いから、親の家にいても親の負担にならない。
親はまだ若いから、よろこんで孫の面倒も見る。
親には家もある。
しかも、男は子育てから解放されて、仕事に没頭できる。良いことずくめだという。いったいこの人は何を考えているのだろうか。
経歴を見ると驚いてしまう。

 個人が、どんな親子関係や、夫婦関係をつくっても、それはまったくかまわない。
個人の自由だ。
通い婚、一夫多妻、一妻多夫、大家族なんでも、個人が自分の責任範囲でやるには良いだろう。
他人はとやかく言わない。
しかし、本として上梓する以上、多くの人に通用する一般性がなければならない。
筆者の論は、一般化には耐え得ない空論に過ぎない。
なぜ、こんな本が出てしまうのだろうか。
編集者はいったい何をしているのだ。
 
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 新しい結婚は正式な結婚ですが、男女は同居しません。それぞれの実家で生活を続けます。それぞれが自分の仕事を持ち、自立した生活をしていきます。
 子どもが生まれると、女の実家で育てます。子育てのベテランである女の母親は、その経験と知識を生かし、子育てに協力してくれるでしょう。働く女にとって自分が生まれ育った生家はとても安心できる居場所なのです。
 安心感のある家庭をバックボーンに持つ女は、仕事に集中し、責任ある立場に向かって前進することができようというものです。これが、新しい結婚です。P17


 結婚する2人に親がいるとは限らないし、親たちだって広い家に住んでいるとは限らない。
孫の面倒をみるのが好きとは限らない。
今後の社会は、誰にも平等な条件を用意する、そんな社会制度でなければならない。
本書がいうように、親の家に女性が居続ける前提自体が不平等である。
しかも、子育てに男性はまったくかかわらない。

 別居していれば、扶養すべき妻子がいないから、男は収入のすべてを使える。
だから、男にも大歓迎のはずだという。
ここまで読んで、あきれ果てたが、女性が別居婚を歓迎する理由を、次のようにいう。

 男がいかに理解を示そうと、夫の家事への参加には限度があります。炊事、かたづけ、洗濯、掃除、買い物、ごみ捨て、風呂洗いや毎回の食事の献立を考えて決める、という日常の家事仕事を、多くの女はほとんどすべてこなしています。
 家事仕事は子どもが生まれると飛躍的に増えます。毎日毎日、仕事帰りに牛乳パックやトイレットペーパーをぶら下げて足早に家路をたどるのは働く女です。
 女は仕事を持っていて、このように家事をし、そのうえに夫の世話もみているのです。P52


 ここには、生活を2人で支えるという発想がない。
何のための結婚かも、まったく考慮の外である。
本書には生きている人間がいない。
あきれて途中で放りだしたくなった。
本サイトで、取り上げるのも憚られたが、こんな愚かな意見をいう男もいる証に掲載する。
  (2010.6.25) 
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参考:
芹沢俊介「母という暴力」春秋 社、2001
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」 筑摩書房、1994
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
下田治美「ぼ くんち熱血母主家庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
須藤健一「母系社会の構造:サンゴ礁の島々の民族誌」紀伊国屋書店、1989
エリザベート・パダンテール「母性という神話」筑摩書 房、1991
斉藤環「母は娘の人生を支配 する」日本放送出版協会、2008
ナンシー・チョドロウ「母親業の再生産」 新曜社、1981
石原里紗「ふざける な専業主婦」新潮文庫、2001
石川結貴「モンスター  マザー」光文社、2007

イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」 筑摩書房、1994
江藤淳「成熟と 喪失:母の崩壊」河出書房、1967
スアド「生きながら火に焼かれて」(株) ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書 館、2001
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、 1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジ ンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワー クス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、 1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」 大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書 房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現 代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職 域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」 宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働 と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」 とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新 潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参 画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」 ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、 1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべ きではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」 東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」 角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、 2004
大塚英志「「彼女たち」 の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」 有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、 2003
中尾靖之「母系家族のすすめ:中尾靖之」東京図書、2004
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、 2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」 水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、 1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書 店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、 1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」 思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書 店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト 経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」 平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の 水書房、1987
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社 会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」 二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、 2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、 1952
井上章一「美人論」朝日文芸文庫、 1995
ウルフ・ナオミ「美の陰謀」TBSブリタニ カ、1994
杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、 1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文 庫、2003
光畑由佳「働くママが日 本を救う!」マイコミ新書、2009
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」 草思社、1997
奥地圭子「学校は必要 か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもから の自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
ジェシ・グリーン「男 だけの育児」飛鳥新社、2001
熊沢誠「女性労働 と企業社会」岩波新書、2000
ミレイユ・ラジェ「出産の社会史  まだ病院がなかったころ」勁草書房、1994
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997

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