匠雅音の家族についてのブックレビュー      単身急増社会の衝撃|藤森克彦

単身急増社会の衝撃 お奨度:

筆者 藤森克彦(ふじもり かつひろ)   日本経済新聞社 2010年 ¥2200−

編著者の略歴−みずほ情報総研株式会社 社会保障藤森クラスター主席研究員。1965年、長野県生まれ。92年国際基督教大学大学院行政学研究科修了、同年富士総合研究所(現みずほ情報総研)入社。社会調査部、ロンドン事務所駐在(96〜2000年)などを経て、04年より現職。07年4月〜08年2月まで日本福祉大学大学院社会福祉学研究科・非常勤講師。専門分野は、社会保障政策・労働政策。主な著書に、『構造改革プレア流』阪急コミュニケーションズ2002年、『マニフェストで政治を育てる』(共著)雅粒社2004年など。

 単身者が増えるというのは、もう常識だろう。
本書は、今後、単身者がますます増えることに、警鐘を鳴らしている。
我が国の家族制度は、核家族のままだろうし、このままいけば、単身者の急増は困ったことを招来する。
今さら騒いでも、子供がたくさん産まれるわけでもない。
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 目次は次のようになっている。

1.単身世帯の実態
2.単身世帯の増加が社会にもたらす影響
3.海外の単身世帯
4.単身世帯の増加に対して求められる対応

 
 徹底したデーター分析である。
なぜ、単身世帯が増加したのかという設問にも、結婚しなかったからだとか、長寿命になって死別が多くなったからだという。
そんな当たり前のことを言ってもらっても、困るんだけれど…。
しかし、本書は発売3ヶ月で3刷りを重ねているから、単身世帯の増加は興味をもたれているのだろう。

 単身世帯の増加を、なぜそんなに問題視するのだろうか。
やはり、単身者は行政のコストがかかるからだ。
家族に福祉をまかせれば、安上がりだから、単身世帯の増加は困ったことなのだろう。

 我が国が高齢化すると騒いでいるが、総人口に老人の占める割合は、ヨーロッパ諸国のほうが高かった。
フランスにしてもイギリスにしても、老人人口はすでに20%を超えている。
にもかかわらず、孤独死を撲滅するなどと、我が国のようにヒステリックに騒いではいない。

 近代化を自力で成し遂げたところでは、個人の自立も早かった。
だから、人間は1人で生まれ、1人で死ぬと自覚されているのだろう。
北欧や西欧諸国では、高齢者の単身世帯の比率が、我が国よりはるかに高い。
その理由を次の3つをあげる。

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 第一に、文化的・規範的要因である。北欧や西欧諸国では、親が高齢になつても子供と同居せずに「自立」して生活することを重視する文化や風土がある。また、老親と子供の双方がプライバシーを重視する。老親と子供との同居を「家族の美徳」と捉える国と、「自立」「プライバシー」を重視する国とでは、規範意識が大きく異なり、高齢期の単身世帯の形成に影響を与えている。
 ただし、北欧や西欧諸国などでも家族の支え合いを軽視しているわけではない。むしろ欧米諸国では、子供と老親の交流は日本よりも活発だという指摘もみられる。例えば、内閣府『第6回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』(2005年)では、別居している子供をもつ高齢者を対象に、「別居している子供と会ったり、電話で連絡をとったりしている頻度」について尋
ねている。その結果をみると「ほとんど毎日」「週1回以上」の合計が、米国80.8%、フランス67.2%、韓国66.9%、ドイツ58.6%、とほぼ6割以上なのに対して、日本では46.8%にとどまっている。P210 (第2,第3の理由は省略)

 保守派はこうした事情を知っていながら、姓を同じくしないと、家族のつながりが薄れるというのだ。
この筆者も家族の大切さをしきりと言っている。
そして、核家族の前提から抜け出そうとはしない。
腰巻きには、無縁社会の実像に迫るとあるから、呆れてしまう。

 それにしても、なぜ我が国の論者は、損得論が多いのだろうか。
いわく年金が破綻する。
いわく単身者は貧困化する。
単身世帯の増加は、介護が困難だ。
単身者の増加は、財政赤字が増大する。
しかも、きわめて近視眼である。
産業構造との連関を探る分析も少ないし、人間の生き方そのものに迫る分析はほとんどない。

 男女・年齢・地域別に徹底分析とあるとおり、データーは良くそろっている。
とくに、海外のデーターはなかなか入手しにくいから、有り難かった。
しかし、データーから見ると、単身者の多い先進国では、それなりにやっているではないか。
もっと根本的なところへと、分析のメスを入れて欲しい。  (2010.9.11)
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参考:
伊藤友宣「家庭という歪んだ宇宙」ちくま文庫、1998
永山翔子「家庭という名の収容所」PHP研究所、2000
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G・エスピン=アンデルセン「ポスト工業経済の社会的 基礎」桜井書店、2000
湯沢雍彦「明治の結婚 明 治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時 事通信社、1998
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、 1972
大河原宏二「家族のように暮らした い」太田出版、2002
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磯野誠一、磯野富士子「家 族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
エドワード・ショーター「近代家族の形 成」昭和堂、1987
S・クーンツ「家族に何が起 きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前 夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」 中公新書、2001
黒沢隆「個室群住居: 崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
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ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」 新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実の ゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談 社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」 学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資 本制」岩波書店、1990
斎藤学「家族の闇をさぐる」小学 館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮 文庫、1997
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伊藤淑子「家族の幻影」大 正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリ ストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」 筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は 家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結 婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」 講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」 講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」 文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日 文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河 出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」 ちくま学芸文庫、2004
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」 すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」 講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さ の常識」中公文庫、1998
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文 庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、 2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャン ダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」 新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家 庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半 と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」 ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」 光文社文庫、2001
中村久瑠美「離 婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」 現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、 1993
森永卓郎「<非婚> のすすめ」講談社現代新 書、1997
林秀彦「非婚の すすめ」日本実業出版、 1997
伊田広行「シングル単 位の社会論」世界思想社、 1998
斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009
マイケル・アンダーソン「家族の構造・ 機能・感情」海鳴社、1988
宮迫千鶴「サボテン家族論」河出書房新社、 1989
牟田和恵「戦略としての家族」新曜 社、1996
匠雅音「核家族か ら単家族へ」丸善、1997
藤森克彦「単身急増社会の衝撃」日経新聞社、2010

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