匠雅音の家族についてのブックレビュー      「婚活」がなくなる日|苫米地英人

「婚活」がなくなる日 お奨度:

筆者 苫米地英人(とまべち ひでと)   主婦の友新書 2010年 ¥762−

編著者の略歴−1959年東京都生まれ。脳機能学者・計算言語学者・分析哲学者・認知心理学者。カーネギーメロン大学博士(Ph.D.)、同コンサルタント。上智大学外国語学部英語学科卒。2年間の三菱地所株式会社勤務を経て、フルプライト留学生としてイエール大学大学院に留学。人工知能の父と呼ばれるロジャー・シャンクに学ぶ。その後、コンピューター科学の分野で世界最高峰であるカーネギーメロン大学大学院に転入。計算言語学の博士号を取得(日本人初)。帰国後、徳島大学助教授、株式会社ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員等を歴任。現在、株式会社ドクター苫米地ワークス代表、コグニティブリサーチラボ株式会社CEO、角川春樹事務所顧問、米国公益法人The Better World Foundation日本代表(一般財団法人BWFジャパン代表理事、兼任)、中国南開大学客員教授、全日本気功師会副会長、天台宗ハワイ別院国際部長、財団法人日本催眠術協会理事。http://www.tomabechi.jp

 就職活動がつまって就活となったのだろう。
それに続いて、婚活という言葉ができた。
結婚活動がつまったのだろうか。
しかし、婚活とは妙な言葉である。

 大企業や官庁に就職すれば、将来が安定している。
そして、裕福な生活が送れる。
いくら日本航空が破産しても、大企業だから国に保護される。
官庁はつぶれない。
とすれば、若者たちが大企業を指向して、就活するのは仕方ないとも言える。
しかし、いつから我が国は、こんな風潮になってしまったのだろうか。
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 好きなことをやる。
それが人生ではないだろうか。
就活でも違和感があるというのに、結婚のための活動をするとは一体どういうことだ。
結婚のための活動とは何をするのだろうか。
街頭で釣書をばらまくことだろうか。
そうでもないだろう。
合コンに精をだすことか。

 なぜ、結婚したいのだろうか。
好きな人と一緒に暮らしたいとか、結婚したいというのは理解できる。
しかし、相手がいないのに、結婚したいとは何を考えているのだろうか。
結婚に憧れているのだろう。
それとも、結婚したい相手が見つかれば、自然と愛情がわいてくるのだろうか。
 
 「仕事に疲れたから」「もうお歳だから」「女の幸せだから」という理由で結婚したくで焦っでいるあなたはメディアや親に洗脳されているだけ。不幸の元凶「婚活」をやめれば本当の幸せが手に入ります。

と、裏扉に書かれているが、そのとおりだ。

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 女性が三高を求めていた時代があった。
当時は、女性に職業がなかったから、仕方なかったのかも知れない。
しかし、今では女性も生涯の職業につける。
じつは、昔から女性にも職業があった。
ただ、男性に開かれている大企業の職場が、女性に閉ざされていることは許せない。
だから本サイトは、女性に職人になれとは言わなかったのだ。

 大学を卒業した後、男性なら大企業が門戸を広げている。
女性は門前払い。
これでは不平等だろう。
許されることではない。
しかし、本当に好きなことを見つけた人は、企業に就職するのではない。
就職をするのではなく、仕事をするのだ。
女性だって、仕事をしてきた人はたくさんいる。
にもかかわらず、いまだに女性には結婚という、逃げ道が用意されている。  

 少し前に、『女性の品格』(坂東眞理子、PHP新書)という本がベストセラーになりましたが、儒教思想の差別主義を強くにおわせています。これが「人間の品格」ならばいいのです。ことさら「女性の品格」という概念を持ち出し、「男性の品格と女性の品格とは違うのだ」と主張するのは性差別につながります。このような思想にもとづく「いいお嫁さんになる差別教育」に文部科学省が税金をつぎ込んで助成金を出しているのはおかしい。日本社会に、いかに儒教思想の洗脳が強いかということを、日本人はもっと自覚したほうがいいと思います。P37

 坂東眞理子は日経新聞に、「ポスト核家族、個が選択−新しい文明への挑戦」という単家族もどきの文章を書いている。
これが単家族のコピーだとは言いたくないが、その彼女が昭和女子大の学長になり、「女性の品格」を書いているのだから、なにをかいわんやである。

 筆者が言うのは、女性が結婚して家庭に入り、家事子育てに専念することを良しとする空気があり、それが女性たちを洗脳しているというものだ。
年収1千万円とか、東大卒とか、弁護士や医者とか、そうした男性に自分の身体を差しだせば、幸福が訪れるというのはウソだと言っている。
当たり前の話だが、働くのが嫌になったら、結婚すればいいと考える女性が多いのだろう。

 筆者の主張はもっともである。
と同時に、我が国の大学フェミニズムの犯罪性に、大きな憤りを感じる。
大学フェミニズムは、女性を守る称して、専業主婦批判をしなかった。
しかし、健康でいながら、働かない人間が許されるはずがない。
それは男性でも女性でも、まったく同じである。
   
 子育てをしたい人は、年収300万で十分。しかし、もうひとつ条件をつけるとしたら、最低の教養を身につけるためにも、大学は出ること。つまり、第4章でお話しした「言語運用能力」をつけるためです。「家庭の事情で大学に行けない」なんて、社会全体が貧乏だった50年前ならざらにありましたが、いまでは自分の育った環境が経済的に恵まれていなくても、奨学金などいろいろな手段を使って大学に進むことができます。そのあとに3年間就職することです。
 以上のことからも、婚活でハイスペックの男に出会うよりも「女は稼げない」という洗脳から自由になつて、一生続けたいと思える職業に出会うことのほうが、幸せな家庭をつくり子育てするための一番の近道だということがわかってきたのではないでしょうか。P129


 当たり前のことが、当たり前に書かれている。
ちょっとオカルトチックなトーンが気になる。   (2010.11.15) 
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参考:
湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時事通信社、1998
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997
黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、1970
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990
斎藤学「家族の闇をさぐる」小学館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997
島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、2004
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998
ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993
森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997
林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998
苫米地英人「「婚活」がなくなる日」主婦の友、2010

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