匠雅音の家族についてのブックレビュー   空き家急増の真実−放置・倒壊・限界マンション化を防げ|米山秀隆

空き家急増の真実
放置・倒壊・限界マンション化を防げ
お奨度:

筆者 米山秀隆(よねやま ひでたか)  日本経済新聞出版社、2012年 ¥1400−

編著者の略歴−1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業、1989年筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所を経て、富士通総研経済研究所上席主任研究員。2007〜2010年慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員。著書に、『少子高齢化時代の住宅市場』(日本経済新聞出版社)、『日本の地価変動構造変化と土地政策』『高コスト経済からの脱却』『勝ち組企業の経営戦略』(以上、東洋経済新報社)、『世界恐慌日本経済最後の一手』『デフレの終わりと経済再生』(以上、ダイヤモンド社)、『勝ち残るための技術標準化戦略』『図解よくわかるCSR』『制定!住生活基本法変わるぞ住宅ビジネス&マーケット!』『図解よくわかる住宅市場』(以上、日刊工業新聞社)など。
 この版元からは藤森克彦の「単身急増社会の衝撃」という本が出ている。
本書もよく似た問題意識で、しかも細かいデーターを並べるところも似ている。
富士総合研究所に在籍していた経歴も同じで、同じ世代に属するからなのだろう。

 人口が減り始めれば、空き家が出るのは当然である。
すでに地方では人口減少が始まっているので、農村部など空き家だらけである。
とりわけ持ち家の多い地方では、住む人がいなくなれば直ちに空き家になる運命である。
高度経済成長期には、住宅金融庫などの持ち家政策が有効に機能したが、人口が減り始めると持ち家政策は問題をあらわし始めた。筆者は
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  1.売却用住宅の空き家
  2.賃貸用住宅の空き家
  3.別荘など二次的住宅
  4.その他の空き家

に分類する。

 売却用住宅の空き家と、賃貸用住宅の空き家は、需給関係のマッチングする間に生じるもので、一定の空き家が生じるのは自然なことだという。
建て売り住宅の売れ残りや、賃貸用住宅の入居者不足は、ふつうに見られる現象で、値段を調整するなどして解消されるものである。
別荘なども問題視する必要はない。
問題は、その他の空き家である。
 
 その他の空き家は、居住者がいない状態であるにも関わらず、将来は使う、使うあてはないがそのままの状態にしておく、あるいはそもそも所有者の所在が不明などの理由で、賃貸、売却市場に出されていない住宅であるが、長い間空き家のままでは、外部不経済が発生する可能性が高まっていく。このような住宅は地方圏で多いと考えられるが、人口が過密な都市圏においても一定数存在する。P25

 こうした空き家をどうするか、その対策を知りたいのだが、本書はなかなか結論を言わない。
空き家になった理由や空き家期間など、細かいデーターを並べて、都市部、周辺部、地方と論じていく。
細かいデーターをみなくても、おおよその傾向は想像つくだろう。
住み手がいなくなった住宅が、ただ放置されているのだ。
子供や親戚などかつての住み手の関係者は、他に住んでいるので、今さら田舎の住宅など欲しくはない。

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 田舎の住宅と言っても、別荘とは違って、風光明媚な立地でもないし、避暑にむいた場所でもない。
ふつうに生活していた場所だから、その場所で生活が成り立たなければ、誰も住みようがない。
田舎に仕事があれば、空き家に住むこともあり得る。
しかし、田舎には仕事がないのだから、空き家は増えることはあっても減ることはない。

 空き家を放置すると、倒壊の危険性や失火・放火などの対象になる。
そのため、空き家を放置できないという。
空き家であっても、所有者はいる。

 建築基準法では、既存不適格(建築された時点では適法だったが、その後の法令変更により違法となったもの)で、著しく保安上危険または衛生上有害であるものについては、所有者に建築物の除却などの措置を命ずることができ、これを履行しない場合、強制的に撤去(行政代執行)できるとされている(第10条)。しかし、これを適用するためには、空き家が既存不適格で、例えば、屋根材が飛散するなど著しく危険であることを証明する必要があり、この点でハードルが高い。また、除却する場合になつても、除却の範囲は必要最小限に限定される。P120

 私有財産制をとる我が国では、所有権のあるものに対して撤去させるのは、きわめて困難である。
行政が強制的に撤去させるには、裁判に類したことをしなければならず、時間も費用もかかる。
そのため、現実的には不可能だと言って良い。

 空き家の所有者が所有権を放棄したとしても、その住宅を解体するには費用がかかる。
その費用を誰が負担するのか。
財政逼迫の折、行政が負担はできない。
本書は住宅地の空き家対策には、海外の例を挙げて示唆しているが、田舎の一軒家に対してはお手上げである。

 空き家対策は、住宅として物理的に使えるか否かではない。
近くに仕事があるかどうかが、空き家となった住宅が生き残れるか否かなのである。
考えてみれば当然のことだ。
田畑という仕事場が家の近くにあったから、田舎でも住宅が必要だった。
田畑での仕事では食えなくなれば、そこに住む人はいなくなる。ただそれだけのことだ。

 新築持ち家を景気刺激策としてきた我が国の住宅政策が行き詰まったのである。
それは筆者も最後に指摘している。

 より根本的には、これまでの新築を様々な形で促進してきた政策を抜本的に改め、中古住宅の活用、また持ち家を賃貸化した物件への居住が進んでいくよう、政策の体系を作り直す必要がある。新築促進策は人口が増加していた時代には適合してきたが、人口減少時代においては新築を促進する必要はなく、むしろ余剰となった物件活用を促す政策へと転換していく必要がある。
 (中略)近年の空き家問題の深刻化は、人口減少局面への移行という日本の構造的な変化が、住宅面で表れているものとして理解できる。人口減少に伴い、今後は住宅政策も根本的に改めていく必要があることを、空き家率の上昇は強いメッセージとして示していると考えることができる。P222


 住宅を建てることは個人まかせにできたが、空き家対策を個人まかせにはできない。
もともと、住む場所の確保を個人に任せきりにして、しかも、儲けの対象としか見てこなかったツケが来ている。ただ、それだけのことだ。  (2012.7.21)
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参考:
J・S・ミル「女性の解放」 岩波文庫、1957
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M・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と 資本主義の精神」岩波文庫、1989
G・エスピン=アンデルセン「福祉国家の可 能性」桜井書店、2001
G・エスピン=アンデルセン「ポスト工業経済の社会的 基礎」桜井書店、2000
湯沢雍彦「明治の結婚 明 治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時 事通信社、1998
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、 1972
大河原宏二「家族のように暮らした い」太田出版、2002
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磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
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S・クーンツ「家族に何が起 きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」 中公新書、2001
黒沢隆「個室群住居: 崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
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ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」 新泉社、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談 社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」 学陽書房、2003
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斎藤学「家族の闇をさぐる」小学 館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮 文庫、1997
島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、 2004
伊藤淑子「家族の幻影」大 正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリ ストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」 筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は 家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」 講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」 講談社、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」 講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さ の常識」中公文庫、1998
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文 庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、 2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャン ダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
下田治美「ぼくんち熱血母主家 庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半 と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」 ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」 光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」 現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、 1993
森永卓郎「<非婚> のすすめ」講談社現代新 書、1997
林秀彦「非婚の すすめ」日本実業出版、 1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、 1998
斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009
マイケル・アンダーソン「家族の構造・ 機能・感情」海鳴社、1988
宮迫千鶴「サボテン家族論」河出書房新社、 1989
匠雅音「核家族か ら単家族へ」丸善、1997
藤森克彦「単身急増社会の衝撃」日経新聞社、2010

米山秀隆「空き家急増の真実日経新聞社、2012

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