匠雅音の家族についてのブックレビュー     ペニスの文化史|マルク・ボナール、ミシェル・シューマン

ペニスの文化史 お奨度:

著者:マルク・ボナール、ミシェル・シューマン
作品社、2001年    ¥2800−

著者の略歴−マルク・ボナール:「男性研究」「男性心理」を専攻する、フランスの精神科医。著書に「男性性と大きさ(強さ)」などがある。ミシェル・シューマン:フランスをはじめ数か国を股にかけて活躍する泌尿器科医。カナダ性医学研究所の科学部長も務めている。
 世界を動かしているのは、お金とセックスだというのは、ある世界では常識かも知れない。
本書はセックスの直接的な担い手である、ペニスにかんする考察である。
本書の扉には、次のような格言がかかげられている。
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神は、人が人をつくるために使用する部分を、
 特別に念入りに創り給うた。
その各部位や大きき、形、その働きを見るにつけ、
 また、それに込められた精神、
そこで感じる苦悩や歓びを考えるにつけ、
魂とは、じつはここに宿っているのではないかとさえ
思わせられる。
  これに賛嘆の念をおぼえ、
特別の感慨を抱かない人間はいないだろう。
 (ニコラ・ヴネット「男女の愛」より)


 白人女性のフェミニストたちは、
性愛について大いに語り、セックスが好きだと公言している。
女性が性的な快感を教授するのは、女性の特権だとすら言っている。
セックスは1人ではできない。
だから、セックスを賛美するところからは、男女の協同関係がうまれてくる。

 わが国の女性フェミニストたちは、性愛について口をつぐんだきりである。
フェミニストだと名のらない女性たちは、セックスについて語るが、
女性フェミニストはそれらを無視したままだ。
彼女たちは、まるでセックスをしないかのようだ。
青鞜の時代など、古い時代の女性の生き方ばかり語り、現代女性の生き方には無関心に見える。
そして、女性は弱者だと言うだけである。

 ペニスは男性の身体で、もっとも女性に近い部分でありながら、
もっとも遠い部分でもある。
セックスの立て役者であるペニスに、もっと暖かい眼差しを向けても、女性たちは決して損ではないと思う。
古代には、ペニスは秘すものではなく、崇拝の対象とした信仰もあった。
それはわが国でも同様で、性器信仰は世界中にあった。
ペニスは豊かな生命力と永遠性の象徴だった。

 しかし、崇拝の対象である「ファルス」は、男性のペニスとは違うものだという。

 聖なる動物の身体の一部を崇拝の対象とするものなので、この偶像の形は、山羊か雄牛のペニスであって、人間のそれではないのである。この偶像には、地上に実りをもたらす春の太陽と同じ性質が与えられている。すなわち、永遠に再生を繰り返す生命力と繁殖力の象徽である。
 ファルスは、聖なるもの、永遠につづく創造の原理を表わし、そのファルスの持ち主である聖なる動物のもつ最高の美点を備えているとされたのである。P20


 わが国の道祖神などを見ると、人間の男性のペニスも崇拝の対象になっていたように思う。
が、ここでは本書に逆らうことはしない。
いずれにせよ、人間の身体の一部が、これほどに注目されるのも、
男女の両者にとって、ペニスが重要だからだろう。
手や足は性器以上に重要だろうが、手や足を祭る神さまはほとんどない。

 社会的な性差と、生物的な性別を区別できるから、
生物的な男女に違いがあっても、男女の等価性が謳える。
わが国の女性フェミニストたちは、個人と社会の位相の違いを理解せず、
女性という性別にこだわるから、男性とのセックスを賛美できない。
個人としての男女関係を、真摯に見つめればセックスの賛美につながるはずである。

 セックスなしの恋愛はあり得ないから、
わが国の女性フェミニストたちは、普通の女性たちから支持されるはずがない。
男性が女性を好きであるように、女性たちも男性が好きなはずである。
だから人類は継続してきたのだ。

 ところで、セックスというと男性にではなく、女性にその心構えを説教するものが多い。
しかし、セックスで実践的な役目を果たすのは、何と言っても男性のペニスである。
こう言っただけで、男根主義者という批判の声が聞こえそうだが、
本書が次のように言うのは事実である。

 一度、勃起不全を経験すると、その男性の性意識を左右するのはもう快楽ではない。その男性にとって、性行為とは、自分が男らしさを取り戻すための試験となる。失敗するのではないかという不安が、多かれ少なかれ固定観念となって(うまくいかなかったときのことを反芻したり、これからそうなることを予期したりする)、うまく機能してくれるかどうかだけが関心事となる。そのような反応のすべてが、セックスに悪影響を及ぼす。P58

 セックスを担うペニスには、さまざまな神話が取り付いている。
とりわけその大きさには、涙ぐましいまでの関心が払われる。
ペニスの大きさは、男性性の象徴で、大きければ大きいほど男は強く、権力があるといわれる。
しかも、男性の性的な能力を、ペニスの大きさで計ろうとする。
これはどこから来たのだろう。
本書は1章をもうけて、ペニスの大きさを考察している。

 男女関係を、精神的なものとして考察するのは、もちろん大切である。
と同時に、物質的な裏付けとして、ペニスへの考察も不可欠である。
ソフトはハードに支えられるから、物質抜きの精神だけはあり得ない。
本書はなかなかに楽しい読み物でもある。

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参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006

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