著者の略歴−しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。1955年東京生まれ。非婚のシングルマザーになり、シングルマザーの当事者団体の活動に参加。その後、婚外子差別の廃止や夫婦別姓選択制などを求める民法改正の活動、反貧困ネットワークにかかわる。反貧困ネットワーク副代表・社会的包摂サポートセンター運営委員・『ふぇみん婦人民主新聞』元編集長。 編著書に『母子家庭にカンパイ!』『シングルマザーに乾杯!』『シングルマザーのあなたに』(以上、現代書館)、『災害支援に女性の視点を!』(共編著.岩波ブックレット)ほかがある。 シングルマザーの筆者が自らの体験を交えて、ひとりで子供を育てる人たちに、生活を豊かにする道筋を提起する、と扉には書かれている。 ひとり親(=本サイトの言葉では単親)の家庭は貧しいことが多いという。 本書はひとり親の厳しい生活環境を、余すところなく書いている。 単親の家庭は増えている。 1998〜2003年にかけて、母子家庭は20%以上増加した。 父子家庭は20年前から比べると、33%増加している。 そのうえ、母子家庭や父子家庭の貧困率は高い。 単親の家庭の子供は、2人に1人が貧困状況にあるという。 我が国は男性優位の社会だから、そうだろうと思う。
単親家庭が貧しいのは、単親たちが働いていないからかというと、そんなことはない。 我が国のシングルマザーの就労率は80%を超え、シングルファーザーのそれは90%である。 これらの数字は、世界的に見ても極めて高く、みな必死に働いている。 それでも貧しい。 第1の理由は、シングルマザーには非正規就労者が多く、もともとの時給が低いことがある。 そのため、長時間にわたって労働しても、収入が大きくならない。 第2の理由は、シングルマザーの学歴が低く中卒者が多いので、時給の高い職種に就けないことだ。 情報社会化はかつて正規労働者としてあったものを、どんどんと非正規に置きかえている。 かつては学校給食の職員や中小企業の経理などは、正規労働者の仕事だった。 しかし、今ではアウトソーシングと称して、非正規就労者へと切り替わってしまった。 公務員ですら、窓口の事務員は非正規就労者が多くなってしまった。 子育て中の人は、本人の生活だけではなく、子供の日常生活をも背負っている。 そのため、就労中であっても、子供の様子に注意を払わざるを得ない。 仕事優先とはならないのだ。 子供のいる人といない人が応募してくれば、子供のいない人を採用するのは自然のことだ。 筆者はひとり親家庭の貧しさを訴え、子育て中の家庭への理解を求める。 筆者の主張はよくわかる。 もうこれ以上、がんばれない…ほど、ひとり親たちは頑張っている。 そうだろうと思う。 現在の社会制度の中で、個別的に生活改善に取り組むと、筆者のような主張になるだろう。 しかし、小規模事業所の経営者も、生き残るために必死ではあるのだが…。 筆者は最後に、今必要なひとり親のための施策として、次の10項目を挙げる。 以下は、ある程度の実現性のあるものだという。 1.児童扶養手当の重要性の認識 2.子ども支援・保育サービスの充実 3.ひとり親の就労支援事業 4.ひとり親医療費助成制度の現物給付制の拡大 5.ワンストップで一度相談したら社会資源につながれる相談を 6.子どもの教育に関する支援 7.孤立を防ぐ ひとり親のニーズに合った交流事業 8.養育費・面会交流に関する支援 9.当事者の参加と事業委託先をオープンにすること 10.そのほかの支援との連携による包括型支援 自分もシングルマザーとして子育てをしてくると、空理空論ではなく実現可能な政策的な話になっていくのだろう。 現実の中では、堅実な話が優先するのは当然である。 本サイトのような現実離れした空論を、こねくり回す余裕がなくなる。 しかし、だからこそ当サイトの存在意義があるのだ。 農耕社会では大家族が適合的だった。 工業社会では性別役割分業の核家族がうまく機能した。 全員を結婚させて、既婚者たちを福祉の対象にすれば、社会は順調に機能した。 しかし、情報社会では核家族制度を維持することが、社会の生産性向上の妨げになる。 今後の家族制度は、単家族制度でなければならない。 貧富の格差が固定しつつあるように感じる。 我が国では、非正規就労者は永久に正規就労者になれない。 新卒時につまずいたら、大企業に転じることは不可能に近い。 大企業に勤める者は高給を稼ぐが、中小・零細企業に勤める者は、永久に低賃金のままだ。 高給を稼ぐ者の子供は、高等教育を受けることができ、高収入の仕事に就く。 高給を取っていれば、たとえ単親でも家政婦さんを雇うことができる。 しかし、貧しい家庭の子供は、高等教育を受けることができず、低賃金の仕事しか得ることができない。
貧困は世代をついで連鎖してしまう。 すべての子供が高等教育を受けることができなければならない。 人材こそ最大の財産なのだ。優秀な子供を育てることこそ、大人たちの使命である。 すべての教育は無償であるべきだ。 単親を援助の対象とすることから、何としても卒業したい。 単親を選んでも、保護の対象にするのではない。 充分な収入を保障し、単親たちが税金を払えるようにしていく。 そうした方向こそ、全員が豊かになれる社会をもたらす道である。 そして、単親であることに誇りをもてる社会になってほしい。 本書は単親の貧しさを丁寧に描いている。 現実の単親は貧しい。 だから、貧しさを克服する政策的な話になる。 しかし、本サイトは根源的な家族制度を考えている。 核家族制度から単家族制度へと変えていくことが、個人を単位とする情報社会では不可避である。 そして、子供は社会が育てることを制度化してはじめて、豊かな未来を確保できるのである。 (2014.6.25)
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