匠雅音の家族についてのブックレビュー      オバサンだってセックスしたい|岩井志麻子

オバサンだってセックスしたい お奨度:

筆者 岩井志麻子(いわい しまこ)   KKベストセラーズ 2010年 ¥781−

編著者の略歴−1964年、岡山県生まれ。和気閑谷高等学校卒業。高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』で日本ホラー小説大賞受賞。翌年、同作品で山本周五郎賞受賞。2002年、『チャイ・コイ』で婦人公論文芸賞、『自由恋愛』で島清恋愛文学賞を受賞。『岡山女』『夜啼きの森』『恋愛詐欺師』『べっぴんぢごく』『鉄道心中』など著書多数。作家活動の一方で、タレントとしても活躍。『5時に夢中!』(東京MXテレビ)の木曜レギュラー出演中。

 45歳はオバサンね。
うーん、立派。
文句なしに星を献上します。
そんじょそこらのフェミニストより、はるかに説得力がある。
そして、筆者のような主張と行動が、女性の立場をより強固にしていくだろう。

 小説家だから、文体を褒めるのでは、褒めたことにならないだろう。
では何が良いかって、筆者のスタンスが良いのだ。
自分を正直に見ている。
筆者の目は、世界が自分を中心に廻っていない。
自分を冷静に見る視線は、かつては男性だけのものだった。
しかし、こうした女性が登場してきているんだ。
脱帽である。
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 腰巻きに本人の顔写真が、アップで載っているけど、充分に美人でとおる。
何でオバサンというか判らないけど。
もっとも、オバサンといいながら、けっして落ちているんじゃなくて、自信があるんだね。
<負け犬>と言いながら、負けを認めていないように、オバサンも今ではブランドなのだ。

 漫画家の正保ひろみも、「男の知らない女のセックス」を書いている。
お二人とも自分の体験を書きながら、充分に社会性をもっている。
こうした書き手がでてきて、女性の地位も少しずつ向上していくのだろう。
男女の対立をあおる大学フェミニズムなど、まったく役にたたないと思えてくる。
大学フェミニズムは建前だけで、自分の体験がまったく感じられない。

 最初の旦那と、離婚に至った理由は書かれていないけど、もう離婚など大した問題じゃないんだね。
岡山から東京へ来て、18歳も年下の韓国人の夫をもって、本当に幸せそう。
多くの国際結婚は、先進国の男と途上国の女という組み合わせだけど、筆者の場合は先進国の女と途上国の男である。
しかも、18歳も年下ということは、年齢秩序でも筆者が優位に立っている。

 白人男に有色人女という組み合わせは、植民地で調達された現地妻といった感じで、痛々しくて目を背けたくなる。
しかし、筆者の組み合わせは、もう頑張れよってだけ言うのみである。
筆者も本書で言っているが、韓国では年齢秩序が強固にのこっているから、親族など関係者には配慮したことだろう。

 近代化というのは、正直なものだ。
自分の国にいると、自分の国の近代化度というのは判らない。
しかし、韓国と比べると、我が国もそして、韓国の状態もよくわかる。
我が国では娘とオバサンの中間がいるが、韓国ではいなかったという。
それが最近、我が国と似たような状況になってきたというから、韓国の近代化も本物になってきたのだ。

 韓国女性は、娘からオバサンになったトタンに、大仏パーマにアイラインの入れ墨をして、トレーナーにウエストがゴムのズボンをはいていた。
それが変わってきたという。

 最近は少なくとも韓国は、徐々に変わってきています。いわゆる適齢期を過ぎても結婚しないでバリバリ働く女も増え、彼女らはちょっと前までは変態とまでは並ばされなくても、何かを捨てた、女を捨てたと見られてましたから。
 ちなみに韓国では、適齢期を過ぎても結婚しない女はずばり老処女(ノチョニョ)と呼ばれていました。あんまりな字面と語感ですね。
 それがは昨今ではオールドミスならぬゴールドミスなんてカツコいい造語で呼ばれて、それこそアガシ(若い娘)達の憧れの対象になってきています。もっとも、今もって首都ソウル限定みたいな雰囲気ではあります。P25


 近代化は都市から始まるのだ。そして、若者から始まるのだ。
近代化は世界中で進んでおり、結婚の聖性も低下し、女性の非婚化も世界共通である。

 筆者は高校生になる息子と同居しているらしい。
その息子に、よがり声が大きすぎると言われている。
下記はその問答である。 

 「自分をオカンオカンといい、J さん(18歳年下の夫)を息子と言うけど。そもそも、息子とヤるかよ−。ていうか母ちゃん、はっきり言ってあのときの声が大きいよ。ボク、隣の部屋で開いててつらいんだよ−。オナニーしてるときに母ちゃんの声開くと、萎える」
 女は母であるほうがモテる、と書きましたが。
 女と母は分離しているのではなく別物でもなく、同じものですから。J を息子のように可愛がりつつ夫としても求めるのは、何の矛盾もないっ、と説明しておきました。
 声が大きいのはスマンのぅ〜、と素直に謝っておきましたけどね。息子も、母が女であるのを早々に知るのは、女への認識を正しいものにする初歩の学びとなるでしょう。P82


 女性が母と妻を演じる桎梏から解放されていく。本当に良い時代になっている。心からエールを送りたい。
 (2010.10.29) 

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参考:
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、 1972
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005  
大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
レオノア・ティーフアー「セックスは自然な行為か?」新水社、1988
井上章一「パンツが見える」朝日新聞社、2005
吉永みち子「性同一性障害」集英社新書、2000
三橋順子「女装と日本人」講談社現代新書、2008
宮崎留美子「私はトランスジェンダー」株)ねおらいふ、2000
虎井まさ衛「ある性転換者の記録」青弓社、1997
杉山文野「ダブルハピネス」講談社、2006
上川あや「変えてゆく勇気」岩波新書、2007
岩井志麻子「オバサンだってセックスしたい」KKベストセラー、2010

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