匠雅音の家族についてのブックレビュー     着るということ|水野正夫

着るということ お奨度:

著者:水野正夫(みずの まさお)  鎌倉書房 1993年 ¥1300−

著者の略歴−1928年名古屋生まれ。デザイナー。東京外国語大学、武蔵野武術大学を経て、文化学院油絵科卒業。1955年から3年間、アメリカ、ヨーロッパ各地に遊学し、帰国後「クチュール水野」を開く。着るということの合理性を常に考え、服は流行に左右されない本質の部分が7、流行の部分が3、という信念をもつ理論家。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで活躍する一方、デザインに関する講師をつとめている。著書に「着こなしていますか」(鎌倉書房)、「伝えたい日本の美しいもの」(婦人生活社)、「チップものがたり」(主婦の友社)など多数。
 衣服を着るといっても、我々日本人には着物と洋服がある。
ちょっと前の日本人たちは、みな着物を着ていたが、いまではほとんどが洋服になってしまった。
洋服の歴史が浅いので、洋服を着ることには落ち着きのなさがあった。
服飾デザイナーである筆者が、着ることについての蘊蓄をかたむけている。
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 筆者が女性服のデザイナーであるので、言われているのは女性に関してが多いが、男性にも共通する指摘でもある。
洋服を着る上で、もっとも大切なのは下半身だ、と筆者はいう。
着物に比べると、洋服は身体に触れる点が多いので、立体的なシルエットになる。
そのため、見せたいところを、身体に添わせるのが、美しく見せるコツだという。
 
 基本色は、黒、ダークブルー、茶、グレー、ベージュの5色で、シンプルなデザインを良しとする。
もっとも基本的なスカートは、腰回りを身体に添わせたタイトスカートで、ヒップの頂点からストレートに落としたものが、良いのだそうである。
そして、流行をこえた基本的なものを7〜8割、流行のものを3〜2割という具合に、揃えるのが賢いらしい。

 ファッションは花のようなもので、そのイニシャチブは西洋諸国に握られている。

 ファッションの花はいつも活きたまま届くのだが、そのときには葉もなければ茎も根もないから、どうやって咲いたのかその経過がわからない。つまりこの花の咲くに至った理由というか、きっかけが理解できない。そのために、この花が美しければ美しいほど、何となく不安で、なじみにくい感じがするのである。P36

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と、筆者は言う。
これはファッションに限らない。
輸入される文化的なものは、すべてそうだ。
新しい思想が流行ると、あわててそれを取り入れる。
葉もなければ茎も根もないから、新しい思想も日本的な変容を受ける。
フェミニズムがその典型で、我が国では働く女性たちの味方でもないし、自由を求める解放の思想でもなくなってしまった。

 筆者は1928年生まれだから、ファッションの日本化には、ずいぶんと苦労したのだろう。
こうした先人たちの努力のうえに、今では渋谷系の日本発のファッションが花開いている。
ファッションなら良いが、フェミニズムの日本化は困ったものだ。

 流行はさまざまに変わる。
 
 今から30年以上も前になるが、当時ミニスカートが流行した。オートクーチュールも例外ではなく、コレクションにあらわれる服のスカートが、あれよあれよという間に膝を出してしまった。
 そのときクリスチャン・ディオールが、こう宣言した。
「こうまでスカートが短くなったので、私のコレクションでは、モデルに下着を着せます」
ということは、それまではパンティをつけさせなかった、というわけだ。
 当たり前のスカートの場合、下着の線が表へ響くということと、もう一つ、モデルの歩き方に隙が出るという理由からだった。歩き方はもちろんのこと、スカートの幅やゆるみ、丈には根本的なルールがあったのだ。そうした約束を皆の目で確かめ合いながら、暗黙のうちに守り続けてきたのだろう。P42


 ベルサイユ宮殿のなかで、優雅なスカートを広げていた時代なら、パンティをはいていなかった。
これは常識だが、年収が千ドルをこえると、女性たちが下着をつけると言う。
にもかかわらず、ディオールのモデルにはパンティを付けさせなかった。
我が国の着物も、もちろんパンティなどという野暮なものは付けない。

 パンティの線がでることだけではなく、パンティをはくことによって、安心感が生まれて気がゆるむ。
だから、パンティを付けさせなかったとしたら、パンティはずいぶんと大きな意味があったのだと思う。
そして、パンティをはいたことによって、立ち小便こそできなくなったが、同時に女性の行動を解放し、女性を自由にしたと言える。

 もう一つミッドナイトブルーについて、面白い指摘をしている。

 電灯のもとでは、黒はその光を吸収していよいよ深く、厚みのある色に見せる。それが蛍光灯に代わったとたんに、上っ面しか反射しなくなった。そのために黒が、かさかさに乾燥した色にしか映らなくなり、上等な黒ほど汚らしい印象を与えるようになった。
 ミッドナイトブルーのタキシードがあらわれたのは、そのころである。P63


 ボクは黒の礼服よりも、ミッドナイトブルーのほうが好きだ。
日本人の肌の色には、ミッドナイトブルーのほうが合うように感じる。
日本人もお洒落になった。
とくに、若い女性のファッションは素晴らしい。
お洒落をするのは、とても良いことだと思う。   (2009.4.1)
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参考:
クライブ・ポンティング「緑の世界史 上・下」朝日新聞社、1994
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
ニール・ポストマン「子どもはもういない」新樹社、2001
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002年
G・エスピン=アンデルセン「福祉国家の可能性」桜井書店、2001
G・エスピン=アンデルセン「ポスト工業経済の社会的基礎」桜井書店、2000
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
黒沢隆「個室群住居」住まいの図書館出版局、1997
S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
ピーター・リーライト「子どもを喰う世界」晶文社、1995
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001

奥地圭子「学校は必要か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
ジュディス・リッチ・ハリス「子育ての大誤解」早川書房、2000
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
増田小夜「芸者」平凡社 1957
岩下尚史「芸者論」文春文庫、2006
スアド「生きながら火に焼かれて」(株)ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、2004
大塚英志「「彼女たち」の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952
スーザン・ファルーディー「バックラッシュ」新潮社、1994
井上章一「美人論」朝日文芸文庫、1995
ウルフ・ナオミ「美の陰謀」TBSブリタニカ、1994
杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994
ジョンソン桜井もよ「ミリタリー・ワイフの生活」中公新書ラクレ、2009
佐藤昭子「私の田中角栄日記」新潮社、1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003
光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009


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