著者の略歴−1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。 コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、‘世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。 また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。 近著に『前向きに生きるなんてばかばかしい 脳料学で心のコリをほぐす本』(マガジンハウス)、『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル)など多数。 本書のような企画がでるのは、
夫たる男性たちが女性である妻の取り扱いに困惑しきっているからだろう。 男性と女性は脳構造が違うのだから、女性の反応は男性と違って当たり前。 女性とりわけ妻と衝突しないように、取扱説明書を読みなさいということだろう。 しかし、如何にも不愉快なタイトルで、妻たる女性をあたかも機械か何かのように扱っている。 妻は出産をする動物で、自分で考えることはなく、 動物的な条件反射で生きていると言っているかのようだ。 条件反射で生きている機械だから、人間を相手にしても取扱説明書がなりたつのだ。 それにしても、最近の女性アンタッチャブルは異常である。女性社員が休んだ後で出勤してきたとき、男性上司が身体でも悪かったの?と聞いたら、 生理がきつかったので休んだそうで、この質問がセクハラだと会社に訴えたという。 また、美人だと褒めることがセクハラだという。
美人か否かが採用基準というなら、大いに問題で許されないが、美人だと褒めることがなぜいけないのだろうか。 美人に対しては美男という言葉があり、女性たちは美男だねと褒めれば良いじゃないか。それに会社を休めば、どうしたのかと心配して声をかけるのは、人間として当たり前のことだ。 たとえ生理がきつくて休んだとしても、生理は自然現象だから堂々と答えれば済むことだ。 どうしてこんなに息苦しくなってしまったのだろか。 さて本書だが、悲惨の一言に尽きる。 「妻が怖い」という夫が増えている。 この現状認識には同意する。それほど男性たちが女性の発言・行動に困惑しているのだろう。
我が国のフェミニズムは女性を自立した人格と扱わずに、弱者だと定義付けてきた。 弱者とはつまり制限行為能力者のことであり、言い換えると子供扱いと言うことだ。 上野千鶴子さんは東大の入学式で「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」といっている。 我が国のフェミニズムは、女性は弱者だから保護が必要であると主張してきた。 弱者に対しては手加減をして接しなければならいが、男性たちは女性を一人前の人間だと思っているから、普通に対応する。 すると女性がイライラするのだそうだ。弱者と見なされ、自分でも自分のイライラを見つめることがないので、周囲の人とくに夫は対応にお手上げになってしまい、 挙げ句の果てには<妻からの精神的虐待>を理由に離婚に至るのだそうだ。 筆者は、女性の脳は子供を産むことに適応して作られており、周産期・授乳期を危機が訪れやすい時期だとしている。 長々と説明したが、つまり周産期・授乳期の妻は、激しいホルモン量の変化に翻弄され、栄養不足で、寝不足で、
自分で自分をコントロールすることもままならない「満身創痍」の状態であることを、まず理解するべきだろう。 P20 周産期・授乳期は上記のとうりだろう。
しかし、女性一般がいつも周産期・授乳期にあるというのは無理な主張である。 以降、さまざまな事例が書かれているが、筆者が薦めるのは、とても通常の人間を相手にした会話だとは思えない。 女性は言葉の通じない動物なのだから、動物語を解釈して刺激しないように対応せよと言っている感じがする。 本書の対象は、専業主婦を持った男性らしいが、こんな女性の状態が続くわけがない。 これでは女性はまったく子供を産む動物であり、女性に哲学など出来ないと言っているに等しい。 社会は人間としての女性ではなく、動物的女性に付き合えと言っているようだ。 しかし、これでは女性には子供の食料が調達できなくなるだろう。また、男性は結婚をしなくなるだろう。 本書は発売後何版も重ねており、大いに売れているらしい。 それだけ男性=夫たちの絶望感が強いのだろう。 何とかして、妻との会話を回復したいというのが、本書を買わせているのだとは思う。 しかし、女性は人間ではないのか! 本書は我が国のフェミニズムの行き着く果てである。 筆者は本書がベストセラーになるまでに、「女の機嫌の直し方」「ヒトは7年で脱皮する 近未来を予測する脳科学」「母脳: 母と子のための脳科学」「夫婦脳―夫心と妻心は、なぜこうも相容れないのか」「キレる女懲りない男―男と女の脳科学」といった類書をたくさん出版している。 切り口はすべて脳構造から説明しているようで、出版社は脳構造企画が好きなのだとあきれる。 中野信子といい女性の脳科学者は、なぜモテるのだろうか? 彼女たちは脳構造が人間の行動を決めているというが、それだと男女の肉体的な違いであるがゆえに、男女平等とは別の見方をしなければなるまい。 脳構造で男女差を語ることは、むしろ女性への逆差別ではないだろうか。 本書は科学の装いをまとったエセ科学のように思える。 本書を取り上げることに無力感が付きまとった。 (2019.3.29)
参考: 伊藤友宣「家庭という歪んだ宇宙」ちくま文庫、1998 永山翔子「家庭という名の収容所」PHP研究所、2000 J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957 末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994 梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988 J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957 ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965 楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005 シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000 鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004 ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006 水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979 細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980 モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992 R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987 ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952 斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003 光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009 フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980 ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001 匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997 ミシェル・ペロー編「女性史は可能か」藤原書店、1992 マリリン・ヤーロム「<妻>の歴史」慶應義塾大学出版部、2006 シモーヌ・ド・ボーボワール「第二の性」新潮文庫、1997 亀井俊介「性革命のアメリカ」講談社、1989 イーサン・ウォッターズ「クレージ・ライク・アメリカ」紀伊國屋書店、2013 エイミー・チュア「Tiger-Mother:タイガー・マザー」朝日出版社、2011 清泉 亮「田舎暮らしの教科書」東洋経済新報社、2018 柴田純「日本幼児史」吉川弘文館、2013 黒川伊保子「妻のトリセツ」講談社α新書、2018
|