匠雅音の家族についてのブックレビュー    学校と社会・子どもとカリキュラム|ジョン・デューイ

学校と社会・子どもとカリキュラム お奨度:

著者:ジョン・デューイ−講談社学術文庫、 ¥1050−

著者の略歴− 1859〜1952。アメリカのヴァーモント州に生まれる。ヘーゲリアンだったが、プラグマティズムに傾倒し、シカゴ大学で教鞭を執る。シカゴ大学に付属小学校を設置し、実験的な教育を試みる。アメリカにおけるプラグマティズムの代表的な学者として、哲学・心理学・倫理学・教育学・芸術論・社会思想・文明批評と多方面で活躍した。著書:「自由と文化」「人間性と行為」
 1899年に刊行された本書は、19世紀後半に台頭し始めた自由教育の理論書である。
1929年の大恐慌へと続くこの時代、アメリカは未曾有の好景気にわき返っていた。
農耕社会から脱皮しつつあった当時の社会は、教育においても新たな方針が希求されていた。
ペスタロッチなどを持ちだすまでもなく、ヨーロッパでは新たな教育運動はおきてはいた。
アメリカでそれを担っていったのが、筆者たちだったのである。
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 農耕社会の教育は個人的なもので、直接人から人へと伝わった。
それは、「情報社会への移行と生涯学習」で書いているとおりである。
前近代の教育は、庶民層ではなく支配層を対象としたもので、世代を越えた権威の伝達がきわめて大切だった。
そのため、教育も権威主義的な様相を帯びていた。
それが産業革命など、主体意識の芽生えや新たな発明が社会的に希求されるようになると、権威主義的な教育では通用しなくなった。
自発的に各自が考え、ものを生みだすには、独創性といったものが不可欠で、それには権威主義はなじまない。

 わが国では、近代の産物が外国から流入したので、自由な外国を権威とした権威主義が隆盛をきわめた。
が、独自に近代を切り開いたアメリカでは、ほんとうの自由教育が発達した。

 知識を授けるための実物教授として仕組まれた実物教授をどれほどやっても、農場や庭園で実際に植物や動物とともに生活し、その世話をするうちに、動物や植物に通じる、その呼吸にはとうてい代りうべくもない。訓練を目的として学校でどれほど感覚器官の訓練をやってみても、平常の仕事に日々身を入れ心を配ることによって得られる感覚生活の溌剌さと充実さには、とうてい匹敵しうべくもない。P22

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こうした記述には、農耕社会から工業社会への転換期にあることが、滲みでている。
手応えのある実生活と、学校という知識を切り売りする場所とでは、そのリアリティにおいて実生活に軍配が上がる。
しかし、すべてを実生活に任せるわけにはいかない。
それでは学校が成り立たないからである。

 本書では旧教育、つまり新たな工業社会に対応するのではない教育を、受動的なものと見なしている。
それは同時の中学進学率が、5%程度だったことからは当然視されたかもしれない。
けれども、筆者はもっと多くの人に、高等教育の機会をつくるべきだと考えている。
そしてそれは自由であるべきだと考えているのだ。
 
 われわれは、子どもの教育と青年の教育とを分割している諸々の障壁を打破したいし、初等の教育と高等の教育とを統一したいと思う。そして、つまりは、教育には初等も高等もない。ただあるのは教育だけであるということが、目のあたりにされるであろう。P96

 教育と言うことの恐ろしさより、教育の素晴らしさを信じることのできた時代、そうした香りが行間から立ち上ってくる。
しかし、振り返ってみると、わが国では本書に書かれたことすら、公立学校では実現されてはいなかった。
画一的な一斉授業や権威主義の押しつけは、いまでも学校にはびこり、登校拒否を生む背景になっている。

 100年以上前に書かれた本書だが、現在でも充分に通読に耐えるものである。
むしろ、情報社会化しようとする今、本書の語る意味は増しているかもしれない。
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参考:
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
奥地圭子「学校と社会・子どもとカリキュラム」講談社学術文庫、1998  
広岡知彦「静かなたたかい:広岡知彦と憩いの家の30年」朝日新聞社、1997
クレイグ・B・スタンフォード「狩りをするサル」青土社、2001
天野郁夫「学歴の社会史」平凡社、2005
浜田寿美男「子どものリアリティ 学校のバーチャリティ」岩波書店、2005
佐藤秀夫「ノートや鉛筆が学校を変えた」平凡社、1988
ボール・ウイリス「ハマータウンの野郎ども」ちくま学芸文庫、1996
寺脇研「21世紀の学校はこうなる」新潮文庫、2001
桜井哲夫「近代の意味:制度としての学校・工場」日本放送協会、1984
ユルク・イエッゲ「学校は工場ではない」みすず書房、1991

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