著者の略歴−東京都足立区でいちばん気さくな税理士。立教大学経済学部卒業後、同大学院で経済学研究科博士課程前期課程修了。現在、早稲田大学ビジネススクールに在学中。夫と娘の3人家族。「ブス」という事実に向き合い、逃げずあきらめず腐らず、戦略的に努力をしてきた経験から、「がんばるブスたちが輝く日本をつくりたい」という骨太のライフワークを実践中。本書は、ブスが「幸せな結婚&ビジネスでの成功」をかなえるための戦略論を、具体的に記した処女作。 http://tamuramami.com/
この本はブスの自虐エッセイではない。れっきとした実用書である。(中略)
ブスの幸せな結婚はちょっとイタイ気がするが、本書の読後感はさわやかである。
小学校時代に自分がブスだと気がついたそうで、それから戦いが始まり、戦った結果、今日の幸せな日々を手に入れたようだ。
自分をブスだというのは、まさに自虐ネタのように感じて、最初は本書を手に取るのを躊躇った。しかし、読み進むうちに、筆者の明るいスタンスに巻き込まれて、あっという間に楽しく読了してしまった。
世の中は不公平である。美人は圧倒的少数で、少数であるが故に、モテて大切にされ得をする。多くの人たちは、ブサイクとブスなのだ。ブサイクでもブスでも人並みの欲求はある。モテたい、幸せなりたいのは、当たり前だ。男には自発性が求められ、自力更生せよと小さな頃から教育されてくる。そのため、外見以外の能力を磨こうとしてくる。しかし、女性は受け身的な生き方を求められて、美醜で判断されがちである。 筆者は、結婚もしたくない、経済的に自立しなくても良いというなら、ブスを受け入れる必要はないという。自分の状況を改善するためには、一度自分を正直に受け入れ、戦略を立てたほうが自分の希望がかないやすい。もっともである。多くの人は自分を冷静に見つめることが下手である。しかし、敵を知り己を知らなければ、戦略は立てられない。ブスであることは変えられなくても、幸せな人生を手に入れることは出来ると筆者は言う。
ブスは美男子とは付き合えないかも知れないが、優秀な男となら付き合えるかも知れない、と考えた筆者はえらい!中学生だった筆者は猛勉強をはじめた。その動機は、いい男とやりたい=セックスしたいだったと言う。本人は性欲が強かったのだそうで、中学生ながら「20歳までにやる!」と時限目標を設定していたのだ。18歳で処女喪失したことが、その後の人生に自信を付けたという。
セックスの瞬間だけ好き合っているでも、ボーイフレンドいないことに比べたら充分に幸せになれる。しかし、セックスは受け身ではないから、彼女になれなくても女性の方から「やり捨てる」のだという。そのとおりだ。当時の筆者にとっては、セックスは愛の交換なんかではなく、スポーツだったという。筆者の姿勢は正しいと思う。 浦和一女こと浦和第一女子高等学校へ進学した筆者は、中学時代の神童からタダのブスに転落したという。地域の天才でも、埼玉県全体から秀才が集まる場では、影が薄くなるのは仕方ない。そこで一芸を取得して、「おもしろいブス」になる。しかも、話しかけられやすいブスになろうとした。いつもニコニコ。否定的、批判的態度を表に出さない。洋服や髪型で清潔感をだすことによって、モテるようになろうとした。 一度はセックスが出来たし、1年も続いたが振られてしまう。一度でもセックスが出来たことは、筆者に自信を与える。そして、自分を商品と見立てて、売り込みの技術に磨きをかける。自分は試供品なのだから、試して完成品へと近づける。練習の場所は「合コン」だった。
失敗前提で行動し、そこから必ず何かを学ぶこと。
筆者のスタンスは素晴らしい。何がって、2人の友だちと合コンを繰り返したことだ。筆者を入れて3人のチームは、最高のトリオだったらしい。合コンで一番重要なことは、女子のメンバー構成だという。男の趣味がかぶらないメンバーと合コンすることという。正しい!同じ趣味なら、男の取り合いになってしまう。そして、新たな男性との出会いは、自己紹介=プレゼンを不可欠とする。これは、社会人になってからも、仕事上とても役に立ったという。そうだろう。
筆者の戦略は、やや痛々しい感じもあるが、なにより積極的で受け身的でない。そこが清々しさを感じさせ、面白奴と感じさせる。たしかにちょっと見には美人が良い。しかし、バーのナンバーワンは美人とは限らない。男だってモテるのは、ハンサムとは限らない。一にマメ、二にチャラというではないか。 合コンは遊びでも娯楽でもなく、本書の戦略上の大切な市場調査をおこなう場である、と筆者は言う。合コンからステディへと移行していくのも、筆者特有の優れた作戦があった。
さわれる店を選ぶ
筆者は幸せな結婚と経済的な自立を目指しているが、性欲が強いと自負するだけあってセックスにも積極的だ。相手の資質に合わせて、リードしたりリードしていると感じさせたり、必死の対応を繰り返した。付き合ってからセックスへと持ち込むまで3ヶ月をかけて、周到な計画のもと童貞の男を落とすのに成功している。
就活をしなかった筆者は、税理士試験の2科目免除につられて大学院へとすすむ。しかし、大学院1年生の時には、受験勉強よりもセックスのほうが忙しかったようだ。ブスでアリながら複数のセックスフレンドを持ち、やりまくっていたという。セックスとは物理的に穴が塞がれることによって、承認欲求が満たされるから、励めたのだという。そのため、幸せな結婚をして仕事も順調な今は、自己承認欲求が満たされて性欲が全くないという。 その後、就職したり退職して一人旅に出たり、自己探求時期を過ごす。税理士試験に合格、旅から戻ると再度の就職。そして伴侶を捕まえ結婚。独立と順調な過程をたどって今日に至る。筆者は自分のことをブスだブスだと言っているが、筆者の戦略は多くの人に当てはまるものだ。最後に筆者は次のように言う。
何よりも、自営業になって、「ブス」を言い訳にできなくなった。
自営業になって「ブス」を言い訳にできなくなったというが、実はすべて言い訳に過ぎない。何か言い訳をしている人は、上手くいかないから言い訳を探しているのだ。幸福を掴んでいる人、成功した人は言い訳をしなかったはずだ。とにかく、筆者のスタンスには爽やかな元気を感じるし、会っていれば退屈しないだろうと感じる。
大学院の研究テーマが「日本における外見的要素が所得に与える影響の分析」だというのが泣かせる。しかし、こうした女性の誕生は、時代は新しい流れに入っていると感じる。凡百の大学フェミニストの本よりはるかに面白かったし、男性の小生にも大いに役に立った。 (2019.7.12)
参考: 伊藤友宣「家庭という歪んだ宇宙」ちくま文庫、1998 永山翔子「家庭という名の収容所」PHP研究所、2000 J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957 末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994 梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988 J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957 ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965 楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005 シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000 鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004 ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006 水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979 細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980 モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992 R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987 ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952 斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003 光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009 フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980 ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001 匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997 ミシェル・ペロー編「女性史は可能か」藤原書店、1992 マリリン・ヤーロム「<妻>の歴史」慶應義塾大学出版部、2006 シモーヌ・ド・ボーボワール「第二の性」新潮文庫、1997 亀井俊介「性革命のアメリカ」講談社、1989 イーサン・ウォッターズ「クレージ・ライク・アメリカ」紀伊國屋書店、2013 エイミー・チュア「Tiger-Mother:タイガー・マザー」朝日出版社、2011 清泉 亮「田舎暮らしの教科書」東洋経済新報社、2018 柴田純「日本幼児史」吉川弘文館、2013 黒川伊保子「妻のトリセツ」講談社α新書、2018 先崎学「うつ病九段」文藝春秋、2018
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