匠雅音の家族についてのブックレビュー   ブスのマーケティング戦略−東京都足立区でいちばん気さくな税理士|田村麻美(たむら まみ)

ブスのマーケティング戦略
お奨度:

著者 田村麻美(たむら まみ)  文響社 2018年 ¥1500-

著者の略歴−東京都足立区でいちばん気さくな税理士。立教大学経済学部卒業後、同大学院で経済学研究科博士課程前期課程修了。現在、早稲田大学ビジネススクールに在学中。夫と娘の3人家族。「ブス」という事実に向き合い、逃げずあきらめず腐らず、戦略的に努力をしてきた経験から、「がんばるブスたちが輝く日本をつくりたい」という骨太のライフワークを実践中。本書は、ブスが「幸せな結婚&ビジネスでの成功」をかなえるための戦略論を、具体的に記した処女作。 http://tamuramami.com/
  紗倉まなの「高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職」にも、時代の新しさを感じたが、本書からも新たな時代の息吹を感じる。しかも力強い女性の自立だ。
   腰巻きには次のようにある。

  この本はブスの自虐エッセイではない。れっきとした実用書である。(中略)
この戦略の目的はふたつ。
  1.ブスの幸せな結婚
  2.ブスの経済的な自立

  ブスの幸せな結婚はちょっとイタイ気がするが、本書の読後感はさわやかである。
  小学校時代に自分がブスだと気がついたそうで、それから戦いが始まり、戦った結果、今日の幸せな日々を手に入れたようだ。
ブスのマーケティング戦略
  自分をブスだというのは、まさに自虐ネタのように感じて、最初は本書を手に取るのを躊躇った。しかし、読み進むうちに、筆者の明るいスタンスに巻き込まれて、あっという間に楽しく読了してしまった。

  世の中は不公平である。美人は圧倒的少数で、少数であるが故に、モテて大切にされ得をする。多くの人たちは、ブサイクとブスなのだ。ブサイクでもブスでも人並みの欲求はある。モテたい、幸せなりたいのは、当たり前だ。男には自発性が求められ、自力更生せよと小さな頃から教育されてくる。そのため、外見以外の能力を磨こうとしてくる。しかし、女性は受け身的な生き方を求められて、美醜で判断されがちである。

  筆者は、結婚もしたくない、経済的に自立しなくても良いというなら、ブスを受け入れる必要はないという。自分の状況を改善するためには、一度自分を正直に受け入れ、戦略を立てたほうが自分の希望がかないやすい。もっともである。多くの人は自分を冷静に見つめることが下手である。しかし、敵を知り己を知らなければ、戦略は立てられない。ブスであることは変えられなくても、幸せな人生を手に入れることは出来ると筆者は言う。

  ブスは美男子とは付き合えないかも知れないが、優秀な男となら付き合えるかも知れない、と考えた筆者はえらい!中学生だった筆者は猛勉強をはじめた。その動機は、いい男とやりたい=セックスしたいだったと言う。本人は性欲が強かったのだそうで、中学生ながら「20歳までにやる!」と時限目標を設定していたのだ。18歳で処女喪失したことが、その後の人生に自信を付けたという。

  セックスの瞬間だけ好き合っているでも、ボーイフレンドいないことに比べたら充分に幸せになれる。しかし、セックスは受け身ではないから、彼女になれなくても女性の方から「やり捨てる」のだという。そのとおりだ。当時の筆者にとっては、セックスは愛の交換なんかではなく、スポーツだったという。筆者の姿勢は正しいと思う。

  浦和一女こと浦和第一女子高等学校へ進学した筆者は、中学時代の神童からタダのブスに転落したという。地域の天才でも、埼玉県全体から秀才が集まる場では、影が薄くなるのは仕方ない。そこで一芸を取得して、「おもしろいブス」になる。しかも、話しかけられやすいブスになろうとした。いつもニコニコ。否定的、批判的態度を表に出さない。洋服や髪型で清潔感をだすことによって、モテるようになろうとした。

  一度はセックスが出来たし、1年も続いたが振られてしまう。一度でもセックスが出来たことは、筆者に自信を与える。そして、自分を商品と見立てて、売り込みの技術に磨きをかける。自分は試供品なのだから、試して完成品へと近づける。練習の場所は「合コン」だった。

  失敗前提で行動し、そこから必ず何かを学ぶこと。
ブスこそリーン・スタートアップ、トライ&エラーである。
このとき、もっとも大切なのは、「フィードバック」の部分である。
失敗から学ばず、同じ失敗を繰り返し、傷を深くしてはだめだ。
具体的には、「デートに誘って」「即断られる」経験を通して、
・そもそも商品力の問題なのか
・ターゲットの二−ズを満たしていなかったのか
・誘い方(プロモーション) がダメだったのかも
など、フィードバックを得る。
次に誘うときは、
・洋服を変えてみる(商品改良)
・誘う相手を変える(ターゲット変更)
・飲み会ではなく素面の場で食事に誘う(プロモーション変更)
 など、必ず前回の反省をいかす。ひたすらひとりで総合点を上げる努力をするよりも、得るものが多いのは言うまでもない。

ブスの作業 最高のチームを編成する
  勇気を出して合コンに行ってみて、得るものがなかった。もしくは嫌な思いをしてしまった。
それがトラウマになって、次なる合コンへと踏み出せない。
そんな話をよく聞く。
ばかやろう。
合コンは1回で成功することなどない。絶対にない。
数をこなさないと絶対にダメなのだ。 P137

  筆者のスタンスは素晴らしい。何がって、2人の友だちと合コンを繰り返したことだ。筆者を入れて3人のチームは、最高のトリオだったらしい。合コンで一番重要なことは、女子のメンバー構成だという。男の趣味がかぶらないメンバーと合コンすることという。正しい!同じ趣味なら、男の取り合いになってしまう。そして、新たな男性との出会いは、自己紹介=プレゼンを不可欠とする。これは、社会人になってからも、仕事上とても役に立ったという。そうだろう。

  筆者の戦略は、やや痛々しい感じもあるが、なにより積極的で受け身的でない。そこが清々しさを感じさせ、面白奴と感じさせる。たしかにちょっと見には美人が良い。しかし、バーのナンバーワンは美人とは限らない。男だってモテるのは、ハンサムとは限らない。一にマメ、二にチャラというではないか。

  合コンは遊びでも娯楽でもなく、本書の戦略上の大切な市場調査をおこなう場である、と筆者は言う。合コンからステディへと移行していくのも、筆者特有の優れた作戦があった。

  さわれる店を選ぶ
合コンの目的が、「会話が続く居心地のいいブス」という印象を与えることで、そこをクリアしてデートまでこぎつけたならば、次は、女を意識させるのが目的となる。
肌と肌との接触だ!
最初のデートのお店はあなたが探そう。女がお店を探すなんてプライドが許さない?
そんなブスは死ねばいい。このお店選びは、相手によく思ってもらうために選ぶわけではない。さわるための作戦だ。店選びはブスにとって命だ。  P169

  筆者は幸せな結婚と経済的な自立を目指しているが、性欲が強いと自負するだけあってセックスにも積極的だ。相手の資質に合わせて、リードしたりリードしていると感じさせたり、必死の対応を繰り返した。付き合ってからセックスへと持ち込むまで3ヶ月をかけて、周到な計画のもと童貞の男を落とすのに成功している。

  就活をしなかった筆者は、税理士試験の2科目免除につられて大学院へとすすむ。しかし、大学院1年生の時には、受験勉強よりもセックスのほうが忙しかったようだ。ブスでアリながら複数のセックスフレンドを持ち、やりまくっていたという。セックスとは物理的に穴が塞がれることによって、承認欲求が満たされるから、励めたのだという。そのため、幸せな結婚をして仕事も順調な今は、自己承認欲求が満たされて性欲が全くないという。

  その後、就職したり退職して一人旅に出たり、自己探求時期を過ごす。税理士試験に合格、旅から戻ると再度の就職。そして伴侶を捕まえ結婚。独立と順調な過程をたどって今日に至る。筆者は自分のことをブスだブスだと言っているが、筆者の戦略は多くの人に当てはまるものだ。最後に筆者は次のように言う。

何よりも、自営業になって、「ブス」を言い訳にできなくなった。
組織にいる場合、運悪く「見た目」重視の上司や取引先と当たってしまえば、アンフェアな扱いを受けることもあるかもしれない。能力は同じなのに美人の同僚が得する場面もあるだろう。
でも、自営業は違う。
すがすがしいほど、市場の反応をダイレクトに感じることができる。
目の前にいる顧客のニーズにこたえられるか否かで、収入が決まる。
そこに美醜格差はない。
そもそもブスがいやなら、はじめっから私のところには来ないだろう。
売上は順調であった。P289

  自営業になって「ブス」を言い訳にできなくなったというが、実はすべて言い訳に過ぎない。何か言い訳をしている人は、上手くいかないから言い訳を探しているのだ。幸福を掴んでいる人、成功した人は言い訳をしなかったはずだ。とにかく、筆者のスタンスには爽やかな元気を感じるし、会っていれば退屈しないだろうと感じる。

  大学院の研究テーマが「日本における外見的要素が所得に与える影響の分析」だというのが泣かせる。しかし、こうした女性の誕生は、時代は新しい流れに入っていると感じる。凡百の大学フェミニストの本よりはるかに面白かったし、男性の小生にも大いに役に立った。
  (2019.7.12)
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参考:
伊藤友宣「家庭という歪んだ宇宙」ちくま文庫、1998
永山翔子「家庭という名の収容所」PHP研究所、2000
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003
光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997
ミシェル・ペロー編「女性史は可能か」藤原書店、1992
マリリン・ヤーロム「<妻>の歴史」慶應義塾大学出版部、2006
シモーヌ・ド・ボーボワール「第二の性」新潮文庫、1997
亀井俊介「性革命のアメリカ」講談社、1989
イーサン・ウォッターズ「クレージ・ライク・アメリカ」紀伊國屋書店、2013
エイミー・チュア「Tiger-Mother:タイガー・マザー」朝日出版社、2011
清泉 亮「田舎暮らしの教科書」東洋経済新報社、2018
柴田純「日本幼児史」吉川弘文館、2013
黒川伊保子「妻のトリセツ」講談社α新書、2018
先崎学「うつ病九段」文藝春秋、2018  

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