著者の略歴−1969年東京生まれのフリーライター。エロネタ、ゲスネタを中心に地方誌やエロ本に執筆中。19歳で処女喪失後、それまでのブランクを取り戻すかのごとく、年令国籍、早漏遅漏、包茎にインポテンツ、童貞もしくは老人を問わず、女の性技術向上のためのHに励み、日々研究を重ねる。 本書は女性によって書かれた、女性が性的な絶頂感を味わうための本である。 わが国でも、女性のためのセックス案内書は、いつか登場するだろうと思っていた。 筆者紹介では女性と名乗っているが、もちろん男性が女性のペンネームを使っていることもあり得る。 そして、女性のためと言っても、男性が読むこともありうる。 女性向けと謳いながら、表紙には男性の肉体ではなく、女性の裸を使っているところを見ると、本書の狙いを疑いたくもなる。 その意味では、今までに出版された多くの類書と、違わないとも言える。
しかし、いままでの類書は、男性がいかに女性を喜ばせるか、という視点で書かれたものが多いように思う。 本書が男性向けの類書と決定的に異なるのは、女性がイクための戦略本だと言うことである。 やや文体が硬いので、男性がペンネームで書いたかもしれないが、本書のスタンスは明確である。 男ほどではないにしろ、女にも性欲はあります。性交の快楽の中に身も心も投じ、絶項の悦楽に酔いしれたいという欲求が存在するのは周知の事実です。このような欲求に従い、女が本当に望むSEXを堪能し、絶頂を迎える。それには、自分から積極的に男を性交に誘うことも、必要なことなのです。(中略) 女がより高い快感で絶頂を得ることのできる自分自身のための性交へと、男を大胆に誘っていきましょう。P12 筆者は自分の体験を書くと言うよりも、謝国権著「性生活の知恵」のような指南書をめざしたのであろうか。 女性が絶頂感を得るにはこうしたらいいと、レッスンの手ほどきをする。 本書の読者は、何歳くらいなのか想像をつけにくいが、33歳の女性が書いたにしては、経験不足のような感じがする。 筆者経歴で書かれているようには、性体験が豊富だとは思えない。 山村不二夫著「性技−実践講座」の行間からは、筆者の実体験だとよく伝わってくる。 女性の快感に奉仕する筆者のスタンスは、それなりに説得力もある。 またオリビア・セント クレアの「ジョアンナの愛し方」も、筆者の体験が基礎になっており、男性の快感が自分の快感でもある、といった充実感を感じる。 それを読者と分かち合いたい、と言った雰囲気がよく伝わってくる。 しかし、本書はマニュアルと題しているせいか、人間味が伝わってこない。 こうしたら自分は激しくイッタ、という文章の感触がうすい。 筆者が自称するように性体験が豊富であれば、文章のどこかに良かった体験や、失敗談がにじみでるものだ。 本書にもデータは書かれているが、筆者の実感とは遠いように思う。 「ジョアンナの愛し方」のように、筆者の吐息が行間から聞こえて欲しいのだが、その意味では本書は物足りない。 しかし、女性から誘うことを肯定していることや、セックスの主導権を女性がとるように主張しているのは好感がもてる。 女の武器であるフェロモンにボディーランゲージを取り入れ、男に誘いをかけていきましょう。また、このボディーランゲージは男に誘わせた場合にもムード作りの一貫として巧みに用い、その場の効果を高めましょう。 ただ、ボディーランゲージだけで男を性交へ誘い込もうとするのは危険です。男は女が考えている以上に鈍感で、時としてそのサインを見逃したり、取り違えて判断したりします。最後に必ず一言添えて誘うのを忘れないようにしましょう。P16 いままでの建前では、女性は男性からの誘いを待つだけだった。 女性が性的な欲求を表に出すことはしなかった。 女性たちは自分の性的な欲求を公表すると、自分の立場が悪くなることを知っていたがゆえに、性的な欲求をもたないかのようにふるまった。 そうした反動で、本書のように自己中心的なスタンスが表れるのだろう。 男性むけの類書が、女性の身体をモノとして扱いがちなのと同様に、本書も男性の身体をモノとして扱っている。 女性が性的な欲求を、貪欲に追求することを肯定する。 そのために男性の身体を使うことを否定はしない。 しかし、男性が自分の性的欲望を貪欲に追求するとしたら、一体どういったことになるだろうか。 <女を楽しむ男の性交マニュアル>といったタイトルだと考えたとき、その寒々しい風景に鳥肌が立つのは、私だけではないだろう。 我が国のフェミニズムが、男性とのよりよき関係構築よりも、男性批判に終始している現状と、本書はどこか通底するものを感じる。 男を組み敷しいている体勢(騎乗位のこと)からしても、この場合のSEXの主導権は完全に女側にあります。女性器への抜き刺し、性感帯への刺激の与え方等、すべてが女の掌中にあるといえるのです。また、この体位は男の性行動を観察する上でも有利ですので、快感を味わいつつ、しつかり男の生態を見学しましょう。男が可愛い存在に思えたならシメタものです。SEXは肉体の摩探だけで燃え上がるものではないからです。P136 フェミニズムは支配・被支配の関係を打破しようとした。男女は等価である。 男性支配の社会が長く続いてきたので、その反動として女性が男性を支配し、男性を楽しむことがあっても良いとは思うが、関係としてのセックスを考えるべきだろう。 男女が等価になる過渡期に、出るべくして出た本であるが、一抹の寂しさがただようのも事実である。 (2002.8.23) 感想・ご意見などを掲示板にどうぞ 参考: フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002 橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998 エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009 島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007 工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006
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