著者の略歴−1922年、京都の名門旧家に生まれる。有名私立大学法学部卒。地方の資産家の婿養子となり、以来、在野の実践的な性科学者として性の世界の追究に赴く。スワッピング歴30数年、″セックスメート″の名で知られる。日本性科学会認定のセックスカウンセラーの資格を持ち、電話による性の悩みの相談に気軽に応じている。
「性生活の知恵」以来、セックスの手引き書は山のように出版された。 本書もその類書の1冊だが、男性は女性の快楽のために存在する、という立場に瞠目させられる。 筆者は、夫婦交際の世界では有名人で、一種のセックスカウンセラー役をつとめているという。 夫婦交際の月刊誌「ホームトーク」に連載されていたものを、まとめたのが本書である。
という文章で始まる本書は、最初から最後まで男性がいかに女性の快楽に奉仕するか、という視点で貫かれている。 男性の快楽は女性に奉仕することであり、 男性が自分の性的な満足を追求することは否定されている。 その一貫した姿勢が潔い。 本書を執筆したとき、筆者は77才である。 女性を喜ばせるために、高齢の彼が2時間に及ぶセックスをする。 様々なセックスが描かれているが、自分の射精はお預けで、 とにかく女性に奉仕奉仕である。 こうしたら女性が感じるというテクニックを、これでもかこれでもかとばかりに繰りだすのには脱帽である。 本書を読んでいると、女性に奉仕する姿勢はいいが、女性を物のように扱っているようにも感じる。 確かに彼の指導で女性たちは喜びを入手しており、彼はこの世界では「先生」と呼ばれているらしい。 女性たちから感謝されているのだから、本書を批判する必要はないかもしれない。 ましてや性の世界は個人的なものだ。本人が良ければ、他人はとやかく言う術はない。 確かにそうなのだが、 ペニスを膣へ突き入れて自分の気持ちがいいように抽送するだけ。これじゃ奥さまの膣を借りてマスターベーションしているみたいなものじゃないかP12 といって批判する自分中心の男性と、彼の奉仕姿勢は同じことの裏表に過ぎないようにも感じる。 奉仕するためには、女性の身体を客観視する必要がある。 だから、彼の目はどうしても女性の身体をみる、つまり物としてみる姿勢はやむを得ないのかもしれない。 それはこうしたら喜ぶといった記述にならざるを得ず、男性側からの一方的な働きかけに終始する。 本書には、男女が互いに働きかけながら、協同するといった姿勢はない。 あくまで男性の意志=観念が、女性の身体を操縦するのである。 ペニスで女性を操縦する発想に比べたらましかもしれないが、この姿勢は男性が主体、女性が客体の構造から抜けでていない。 ここで快楽にうちふるえる女性は、男性が文化で女性は自然を認めることになるのか。 女性の快楽がどういったものか、私にはよく判らないので、結論めいたことは言わない。 女性が客体として扱われても、性的な快感は多いほうが良いのかも知れない。 ただ、アメリカの類書を読んでいると、セックスを男女の協同作業と考えているように感じる。 フェミニズムを通過した男女には、主体客体の関係はないとすれば、本書はやはり古いのだろう。 女性に奉仕という概念自体が、男性支配の変種に過ぎないのであろうか。 本書には、男性の観念性がよく表れている。 セックスは生殖ではない。 本書は建前的なセックス観を軽々と超えているが、わが国のフェミニズムはセックスをどう考えているのだろうか。 わが国のフェミニズムは、セックスについて自ら語らないから、最後のところで信用できないのだ。 感想・ご意見などを掲示板にどうぞ 参考: 岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972 S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001 顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000 フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993 エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989 田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999 フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002 橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998 エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009 島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007 工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006
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