著者の略歴− 1970年、山口県生まれ。東京都立大学卒業後、訪問販売業を経て風俗入り。ピンクサロン、イメージクラブ、性感ヘルス、DCなど各種風俗を経験、一番長いのがソープランド。吉原の大衆店に2年、高級店8年在籍して、ナンバーワンになったことも。その体験をもとに、ライター業を兼業。97年『性器末コレクション』(イースト・プレス)98年『てぃんくる系必勝講座』(太田出版)を刊行。2003年に鍼灸マッサージ師の国家資格取得。2006年吉原の高級ソープランドを引退。オフィシャルサイト http://www.mizukachan.com/ 売春を職業にしていると、はっきりと書いているのも清々しいし、 何よりも自立精神に富んでいる。 筆者のような体験を持つ人間が、きちんと発言してこそ、怪しげなフェミニズムのオバサンたちを退治できる。 並の学者以上に、とても論理的だというのが、読後感である。
まだまだ、女性の養ってもらいたい願望は強い。 女の武器を最大限に使って、自分を専業主婦へと高く売りつけよう、そんな風潮が跋扈するなかで、筆者の立場はきわめて真っ当で、人間的である。 (筆者は)大卒で物言う風俗嬢として、執筆活動などさせていただいていた過去を持ちます。 そんなふうに一般社会からは脱落した身とはいえ、実は同世代のキャリア女子には共感することしきりなのだ。きっと一般企業で働いたとしても、私は結婚していないだろうから。みな同じように考えているとカン違いしていた。 「未婚、子ナシ、30代以上」は負け犬ですって。いいじゃん、みんなで年取れば。結婚しなくても大丈夫さ。 ところが、みんな結婚「したい」けど「できない」だけだったんですね。 「いい男がいない!」って、誰もが口を揃えるけれど、いないものはしょうがない。そもそもなんでそんなに結婚したいのかが、私にはわかりません。P2 結婚願望がないと明言する人は少ない。 独身でも、独身主義ですというと、廻りの抵抗が大きいらしい。 したいけどできないというと、受けいれて貰えるようなので、 とりあえず結婚したいと言っているだけかも知れない。 しかし、廻りの空気にあわせる女性は、人間として面白くない。 彼女たちは、ずっと結婚できないだろう。 筆者はいわゆる常識的なよい子にも、きちんと眼をかけているし、オタクな人たちにも理解を示している。 このあたりの幅の広さが、いわゆる客商売から来ているのだろうか。 37歳のソープ嬢だと名乗る筆者は、じつにシャープな人間認識をしている。 ちなみに風俗店でも、男性は写真指名をしたがるわりに、迷った末、店員の薦めに応じるケースが多い。要は男同士で商品(女の子)をあーだこーだと見定めてるだけ。「好みのタイプ」は非現実的な理想で、本当は頭の中にしかないんだ。例えば、むちゃくちゃ可愛いくてスタイルは細身のくせにおっぱいは大きくて、エロいくせに清純で、自分だけに甘えてくるけどテクニシャン、みたいな。矛盾する要素を平気で混在させるのが、「理想像」というものだろう。 風俗嬢の当たり外れは、容姿の問題だけではないので奥が深いのだが、風俗初心者は写真詐欺に遭いやすいのも、いい女風の記号に騙されてる証。男に「選ばせる」ように、記号やフエロモンを振りまくことができる女がモテるのだ。P34 理想というものは、上記のようなものだろうし、あまりに具体的であっては理想ではない。 また、風俗嬢に限らず、人間は誰しも奥が深い。 にもかかわらず、モテようとしてマーケッティグした結果に従うと、没個性的になってしまう。 そして、マーケッティグという手法に従うのは、競争に自分を晒すということだから、 なかなか思った通りの成果が上がらないもの仕方ないことだ。 女性の専業主婦になる競争は、稼ぎのあるイケメン男性から、言い寄られることによってゴールする。 自分を愛してくれるという錯覚で、一時的に舞い上がるのが、女性の結婚レースなのだが、 結婚した後の生き方は難しいだろう。 なにしろ自分を愛してくれというのだから、若くなくなったら詐欺だろうし、もちろん体形が変わったりしたら、許されるはずはない。 愛するというのなら、自分が変わっても許されるが、愛してくれというのは難しい。 結婚までは自分の肉体を磨くのだろうが、それ以降は何を売り物にするのだろうか。 筆者は、当然のごとくにこの矛盾を書いている。 そして、愛情とセックスとの関係にも鋭い指摘をする。 感度のいい男性を攻めていると、相手の快感が自分の身体の延長にあるように感じたりする。自分の境界線がなくなるような感覚もときに味わう。 セックスは、相手がいなければできないし、交わりたい触れ合いたいという欲求は、望んだ特定の相手と叶えるのが望ましいが、肉体に生じる影響は、相手が誰であるかとは別のところにあるのではないか。だって自分が誰であるかすら関係なく、ただ肉体のみになるのだから。P172 愛のないセックスだって可能であるにもかかわらず、 愛とセックスは付き物のように書いている場合が多い。 筆者のように冷静な発言がでてくると、イデオロギーでものを語る女性たちのアホらしさがよく判る。 ほんらい経験を集積して、それを分析することが科学だろうに、 かくあるべしと書く学者たちへの、強力な批判になっている。 ちょっと気になったのは、自分が幸せなら良いと言いながら、 筆者の基準では、男性はなかなか及第点が貰えない感じがする。 男女対等の関係でのセックスは、男は不利なんだとわかっていながら、勃たたなけりゃ話にならんという。 動物としての人間と、社会性としての人間の狭間を、もう少し切開して欲しかった。 ジャネット・エンジェルの書いた「コールガール」を思いだしながら読んだが、 我が国の売春業界は安全なのだと感じた。 女性の状況は間違いなく進んでいるが、女性の状況も、また男性の状況の反映でしかないということか。 (2008.5.8) 感想・ご意見などを掲示板にどうぞ 参考:匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997 岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999 フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991 ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001 オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992 石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002 梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001 山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002 プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995 アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989 カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995 シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001 シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000 アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991 曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003 アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002 バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991 編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005 エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992 正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004 ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006 ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006 菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000 ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997 ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001 ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」KKベストセラーズ、2006 松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003 ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985 謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960 山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999 ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001 赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996 佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996 ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969 田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004 ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000 酒井あゆみ「セックス・エリート」幻冬舎、2005 大橋希「セックス・レスキュー」新潮文庫、2006 アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006 石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008 石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995 佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999 生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002 村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994 岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009 ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003 メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009 白倉敬彦「江戸の春画」洋泉社、2002 田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999 パット・カリフィア他「ポルノと検閲」青弓社、2002 匠雅音「性差を超えて」新泉社、1992
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