匠雅音の家族についてのブックレビュー     若者と娘をめぐる民俗|瀬川清子

若者と娘をめぐる民俗 お奨め度:

著者:瀬川清子(せがわ きよこ)−−未来社、1972年 ¥7、000−

著者の略歴−著書:「村の女たち」未来社、1970
 江戸時代から明治時代まで、つまりわが国の産業が農業であった時代の物語である。
本書は庶民の若者の生活を、民俗学的な資料によって論じている。
現在では、成人を20歳としているが、
この時代には13歳もしくは15歳が成人になる節目だった。
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若者と娘をめぐる民俗

13歳もしくは15歳の成人後から、50歳位までの生産年齢の人間によって、社会は維持されてきた。
この事実を本書ははっきりと見据えている。

 成人式は1人前の生産能力を持つ者と、社会が認める儀式であり、
その起源はたいそう古い。
本書は、1人前の労働力とは何を言うのか詳細に例示しており、
人間の体しか頼るものの無かった時代の、人間の位置づけを良く語っている。
私は肉体労働から頭脳労働への転換が、情報社会化を招き女性の台頭を招来したと主張するものだが、その根拠の多くは本書によっている。

 多くのフェミニストと称する女性たちが、女性差別を打破したいがために歴史を無視し、
ただ闇雲にイデオロギー優先の論を展開している。
腕力差を男女差別の根拠としてしまうと、永遠に男女差別は解消されないと恐れ、
フェミニストたちは男女の腕力差を差別の原因とは認めない。
では、いったい何が男女差別の根拠だというのだろうか。
多くのフェミニストから学ぶものはほとんど無いが、本書は男女がいかに生きてきたかを良く教えてくれる。

 成人式の方法から村のしきたりまで、本書は調査や聞き取りによって、
往時の人たちが何を考えいかに生活しようとしていたか、豊富な例をもって示す。
成長してきた若者たちが、村落共同体の完全な一員になる前段として、
若者組や若者宿などで過ごす意味なども詳細に述べられている。

 どんな社会もその社会が成り立つには、それだけの必然性があるのであって、
その仕組みを解明して初めて人間が判るのである。
非力な女性でも、女性なりに発言力があった。
肉体という労働力に信頼をおく社会の仕組みが良く解明されている。

 肉体労働がいかに年齢に左右されるか、
13歳もしくは15歳を未成年とする今日では判らないだろう。
肉体労働の盛りは、30〜40歳代なのである。
それを過ぎたら、老眼が始まり、疲労の回復が遅くなり、けっして生産性は上がらない。

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 肉体労働の支配する社会とは、生産力の盛りを、一人前の人間と見なす社会でもある。
つまり一人前の労働力たり得れば、
人間としても一人前として認めたのが、農耕社会だったのである。
そのため、農耕社会では男女間の情愛関係も、当然のこととして13歳もしくは15歳で認めた。
その場を提供したのが、若者宿というわけである。

 肉体労働しかない時代に、男女の腕力差を無視したらどういうことになるか。
社会的な秩序は、長い間には必ず社会の産業構造によって拘束されるものであり、
産業構造を無視して社会的な価値が出来上がることはない。
男女が平等であるべきだといっても、
腕力に優れる者を優位と認めなければ社会は成立しない。

 腕力に優れた者を社会的な優位と認めることによって、
社会の秩序は安定していたのである。
フェミニストたちは社会の秩序と、個人の意識を混同している。
社会と個人は次元の違うものであり、
男性優位の社会でも個人の男女間にあっては、必ずしも男性優位とは限らない。

 男女差別を解消するには、個人の意識を変えることではなく、
社会の制度を変えることである。
男女差別をなくそうとしたら、男女間に腕力差がある以上、
労働の形態を肉体労働から頭脳労働に変えていくことである。
肉体的な力には男女差があるが、頭脳の出来不出来には男女差がない。

 頭脳労働が主流になれば、男女差別は生産性向上に逆行するものになり、
男女を別物と考えること自体が反社会的なものになる。
そうは言っても個人の次元では、相変わらず男女差は存在し続けるから、
男女間の恋愛は充分に存続する。
と同時に、社会的に男女差が無くなれば、異性を指向する動機も減り、
ゲイの台頭が始まることも事実である。
つまり男女差別の解消とは、性差の無化であり、個人にこだわることの始まりなのである。

 1972年に出版された古い本だが、内容はいつまでも古びない。
本書は男女の労働にかんして基本的な資料となるものである。
同じ筆者の「村の女たち」未来社、1970も、時代を見る目をよりシャープにしてくれる。
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参考:
高倉正樹「赤ちゃんの値段」講談社、2006
デスモンド・モリス「赤ん坊はなぜかわいい?」河出書房新社、1995
ジュディス・リッチ・ハリス「子育ての大誤解」早川書房、2000
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもからの自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」草思社、1997
ウルズラ・ヌーバー「<傷つきやすい子ども>という神話」岩波書店、1997
編・吉廣紀代子「女が子どもを産みたがらない理由」晩成書房、1991
塩倉裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
ピーター・リーライト「子どもを喰う世界」晶文社、1995
ニール・ポストマン「子どもはもういない」新樹社、2001、
杉山幸丸「子殺しの行動学:霊長類社会の維持機構をさぐる」北斗出版、1980
矢野智司「子どもという思想」玉川大学出版部、1995  
瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972年
赤川学「子どもが減って何が悪い」ちくま新書、2004
浜田寿美男「子どものリアリティ 学校のバーチャリティ」岩波書店、2005
本田和子「子どもが忌避される時代」新曜社、2008
鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001
小田晋「少年と犯罪」青土社、2002
リチヤード・B・ガートナー「少年への性的虐待」作品社、2005
広岡知彦と「憩いの家」「静かなたたかい」朝日新聞社、1997
高山文彦「地獄の季節」新潮文庫、2001 
マイケル・ルイス「ネクスト」潟Aスペクト、2002
服部雄一「ひきこもりと家族トラウマ」NHK出版、2005
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972
ロイス・R・メリーナ「子どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005
瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972年

エリザベート・パダンテール「母性という神話」筑摩書房、1991
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
S・メルシオール=ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
顧蓉、葛金芳「宦官 中国四千年を操った異形の集団」徳間文庫、2000
フラン・P・ホスケン「女子割礼:因習に呪縛される女性の性と人権」明石書店、1993
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国 T・U 古代ギリシャの性の政治学」岩波書店、1989
田中優子「張形 江戸をんなの性」河出書房新社、1999
フランチェスコ・アルベローニ「エロティシズム」中央公論 1991
ジョルジュ・バタイユ「エロスの涙」ちくま学芸文庫、2001
オリビア・セント クレア「 ジョアンナの愛し方」飛鳥新社、1992
石坂晴海「掟やぶりの結婚道 既婚者にも恋愛を!」講談社文庫、2002
梅田功「悪戦苦闘ED日記」宝島社新書、2001
山村不二夫「性技 実践講座」河出文庫、1999
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
プッシー珠実「男を楽しむ女の性交マニュアル」データハウス、2002
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
福田和彦「閨の睦言」現代書林、1983
田中優子「張形−江戸をんなの性」河出書房新社、1999
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1995
アンドレア・ドウォーキン「インターコース」青土社、1989
カミール・パーリア「セックス、アート、アメリカンカルチャー」河出書房新社、1995
シャノン・ベル「売春という思想」青弓社、2001
シャノン・ベル「セックスワーカーのカーニバル」第三書館、2000
アラン・コルバン「娼婦」藤原書店、1991
曽根ひろみ「娼婦と近世社会」吉川弘文館、2003
アレクサ・アルバート「公認売春宿」講談社、2002
バーン&ボニー・ブーロー「売春の社会史」筑摩書房、1991
編著:松永呉一「売る売らないはワタシが決める」ポット出版、2005
エレノア・ハーマン「王たちのセックス」KKベストセラーズ 2005 
高橋 鐵「おとこごろし」河出文庫、1992
正保ひろみ「男の知らない女のセックス」河出文庫、2004
ロルフ・デーゲン「オルガスムスのウソ」文春文庫、2006
ロベール・ミュッシャンプレ「オルガスムの歴史」作品社、2006
菜摘ひかる「恋は肉色」光文社、2000
ヴィオレーヌ・ヴァノイエク「娼婦の歴史」原書房、1997
ジャン・スタンジエ「自慰」原書房、2001
ジュリー・ピークマン「庶民たちのセックス」 KKベストセラーズ、2006
松園万亀雄「性の文脈」雄山閣、2003
ケイト・ミレット「性の政治学」ドメス出版、1985
謝国権「性生活の知恵」池田書店、1960
山村不二夫「性技−実践講座」河出文庫、1999
ディアドラ・N・マクロスキー「性転換」文春文庫、2001
赤川学「性への自由/性からの自由」青弓社、1996
佐藤哲郎「性器信仰の系譜」三一書房、1996
ウィルヘルム・ライヒ「性と文化の革命」勁草書房、1969
田中貴子「性愛の日本中世」ちくま学芸文庫 2004
ロビン・ベイカー「セックス・イン・ザ・フューチャー」紀伊國屋書店、2000
アンナ・アルテール、ベリーヌ・シェルシェーヴ「体位の文化史」作品社、2006
石川弘義、斉藤茂男、我妻洋「日本人の性」文芸春秋社、1984 
高月靖「南極1号伝説」バジリコ、2008
石川武志「ヒジュラ」青弓社、1995
佐々木忠「プラトニック・アニマル」幻冬社、1999
生出泰一「みちのくよばい物語」光文社、2002
村上弘義「真夜中の裏文化」文芸社、2008 
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1994
岩永文夫「フーゾク進化論」平凡社新書、2009
ビルギット・アダム「性病の世界史」草思社、2003
メイカ ルー「バイアグラ時代」作品社、2009
イヴ・エンスラー「ヴァギナ・モノローグ」白水社、2002
橋本秀雄「男でも女でもない性」青弓社、1998
エヴァ・C・クールズ「ファロスの王国」岩波書店、1989
岸田秀「性的唯幻論序説」文春文庫、1999
能町みね子「オカマだけどOLやってます」文春文庫、2009
島田佳奈「人のオトコを奪る方法」大和文庫、2007
工藤美代子「快楽(けらく)」中公文庫、2006

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