著者の略歴−自営業者として平凡な日々を送るも、店の改装のために借り入れた、ほんの小さな運転資金から多重債務者となってしまう。その後、高金利による400万円以上の過払いが返済を困難にしていたことを知り、弁護士をつけずに独力で返還訴訟を起こす。最高裁にいたるまで、いくつもの訴訟を勝ち抜いた。 大手の企業は法律的な武装をして、バンバンと訴訟に訴えてくる。 個人的な心情としては、裁判にかかわったと言うだけで、何だか後ろめたくなりそうだ。 本書は、サラ金の返済督促にしたがって、言われるままに返済をしてきた。 しかし、ある時、過払い状態になっていることに気づいた筆者の裁判記録である。 法定金利は、元本10万円未満は20%、元本10万円以上100万円未満は18%、元本100万円以上は15%)が適用される。 これは利息制限法に従った場合である。 しかし、サラ金などは出資法をもとに、金利は29.2%をつかっている。 利息制限法には罰則がないから、こんな高利をとっても、サラ金には何の罰もない。
多くの債務者は、請求のままに返済していくから、3年をすぎる頃から返済しすぎになっていく。 多くは気がつかずに、そのままになっていくことが多い。 しかし、筆者は気がついてしまった。 払いすぎだから、返せといった。 しかし、どのサラ金も返さない。 そこで裁判をおこした。 返済で首の回らなかった筆者は、弁護士に頼む費用がなかったので、本人訴訟を起こしたのだ。 「弁護士いらず」でも書かれているが、私人同士の争いを解決するための民事訴訟は、もともと本人訴訟が原則である。 サラ金地獄に堕ちいている多重債務者に、弁護士費用をださせるのは難しい。 結果として、裁判制度は大企業に有利に働くことになる。 返済が滞ると、サラ金業者は矢のような催促を始める。 恫喝や勤務先に押しかけることは、法律で禁止されているが、電話での恐ろしい催促が重圧化してくる。 すでに過払いになっていれば、この督促の電話を切らなければならない。
内容証明郵便は1通送るのに、3千円ほどかかる。専門の用紙を用いなくてはならないうえに手数料も高い。当時の私にとって3千円は大金である。しかも10社以上に送らなくてはならないのだから、これはとても無理だと考えた。そこで、手持ちの便箋に手書きで書き、証拠としてコピーを取り、配達証明付郵便で送ることにした。60ページに、そのときの内容を記しておく。 これなら一通800円ほどですむ。私が送ったのは11社。郵便局に払ったお金が8800円。コピー代などを入れれば9千円くらいですんだ。もちろん当時の私にとっては9千円だって惜しいが、これをやっておくと電話の催促がとまるのである。P50 その後、ゆっくりと訴状を出せばいい。 筆者のすごいところは、和解を拒否して、全額の返還を勝ち取ったことだ。 しかも、遅延損害金と訴訟費用も全額とっている。 これはすごい。 私がすべての裁判をとおして曲げずにきたのは、遅延損害金と訴訟費用についてである。 ]地裁の判決では、遅延損害金の発生を「訴状を提出した翌日から」というおかしな事例に基づいたものになっている。私は自分が最後に支払いをした翌日、平成14年2月16日からとしてもらうのが当然と思っていたので、その部分を争点として控訴したのだ。手間を考えたら、控訴しないほうが得かもしれない。P175 しかし、筆者は控訴した。 そして、勝った。 全面的に勝った。 裁判で全面的に勝つというのは少ない。 和解であれば、要求の80%で妥協せよと、裁判所は言ってくる。 これには遅延損害金はないし、訴訟費用も各自持ちとなり、損した感じになる。 裁判をしても、正当な要求が入れられず、裁判官によって(時には弁護士も参加して)あやふやに丸め込まれる。 だから、世人は裁判をしても無駄だと思うようになり、ますます裁判から遠ざかっていく。 本書では、裁判の常識は世界の非常識、と何度も筆者はいっている。 そうだろうと思う。 しかし、とにかく全額を取り戻せて良かった。 そういった意味では、民事訴訟はまだ辛うじて頼りがいがあるのかも知れない。 (2008.7.3)
参考: ジョン・ハワード「18世紀ヨーロッパ監獄事情」岩波文庫、1994 山本譲司「累犯障害者」新潮社、2006 足立正生「塀の中の千夜一夜」愛育社、2005 三浦和義「弁護士いらず」太田出版、2003 浅野健一「犯罪報道の犯罪」新風舎文庫、2005 山崎哲「<物語>日本近代殺人史」春秋社、2000 菊田幸一「日本の刑務所」岩波新書、2002 有村朋美「プリズン・ガール」新潮文庫、2005 佐藤清彦「にっぽん心中考」文春文庫、2001 管賀江留郎「戦前の少年犯罪」築地書館 2007 浜田 寿美男「自白の研究」三一書房、1992 小田晋「少年と犯罪」青土社、2002 鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001 流山咲子「女子刑務所にようこそ」洋泉社、2004 藤木美奈子「女子刑務所」講談社文庫、2001 ヨシダトシミ「裁判裏日記」成美堂出版 2008 小室直樹「痛快!憲法学」集英社、2001 芦部信喜「憲法判例を読む」岩波書店、1987 D・T・ジョンソン「アメリカ人のみた日本の検察制度」シュプリンガー・フェアラーク東京、2004 河合幹雄「安全神話崩壊のパラドックス」岩波書店、2004 河合幹雄「日本の殺人」ちくま新書、2009 加納実紀代「天皇制とジェンダー」インパクト出版会、2002 桜井哲夫「近代の意味-制度としての学校・工場」日本放送協会、1984 M・ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」岩波文庫
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