匠雅音の家族についてのブックレビュー    ニッポン仰天日記|リチャード・ゴードン・スミス

ニッポン仰天日記 お奨度:

著者:リチャード・ゴードン・スミス−−小学館、1993年 ¥3、800−(絶版)

著者の略歴−1858〜1918年、イギリス人。裕福な商家に生まれたが、陸軍士官学校の入試に失敗したので、冒険家となった。40才の時に、離婚問題を逃げるために旅にで、博物学的な興味から様々な記録を残した。
 本書は、トーマスクックを使って来日した、イギリス人の日本滞在記である。
明治も31年からと時代は下るので、わが国も近代化が進んでいる。
筆者がきわめて詳細に記録を残していることから、本書は楽しい読み物となっている。
と同時に、当時の生活を知る手がかりを与えてくれる。
TAKUMI アマゾンで購入

 最近では明治時代の写真集も、たくさん出版されているが、
本書はわが国のまた違った側面を見せてくれる。
やはり、筆者の強烈な好奇心というか、彼独自の価値観に基づいた観察こそ見応え、読み応えがある。

 当時のイギリス人、それも上流階級に近い人物の物の見方、
そしてイギリス人であることの自信が、本書のどこからともなく伝わってくる。
当時のイギリスが、いかに世界の中心だったかが判る。
それと同時に、イギリス本国では極東の情勢には、多くの人はほとんど感心がなかったことも判る。
こうした紀行文は、書かれた事実もさることながら、書かれていないことや滲み出てくる端々に驚かされる。

 1904年、筆者は日露戦争の進行を、日本で聞いている。
ロシアのバルチック艦隊がスエズ運河を通過するので、商船が待機させられていることに怒っている。
デンマーク、フランス、スペインなどがロシア寄りであり、イギリスでも黄禍論があることにとまどっている。

 女性への関心は通常の男性並にあったらしく、女性の写真もたくさん撮影している。
色白の瓜実顔に、ぱっちりとした目、きれいに通った鼻筋、そして小さな口といった具合に、
どうも女性の美というのは、おおよそ共通しているようだ。
筆者が美しい日本の女性と説明を付けている写真は、現在の目で見ても美人である。

 筆者は狩猟を好むと同時に、海産物にも興味を持っており、しばしば海へ出かけている。
そして、海岸の風景や海産物などを記録している。
本書の圧巻は、海女たちに音楽を聴かせて写真を撮っている場面である。

 まずは、海女たちの写真を撮ることだ。
20人全員、つぎに年長者たちだ。
最高の海女たちはみな年寄りだ。
5人の少女以外に若い海女はいない。
例の62歳の海女から判断すると、女性たちはいくつになっても潜れるようだ。
彼女らは出産前の臨月でさえ潜り、産後一週間で復帰する。
彼女らこそ、一家のおもなかせぎがしらなのだから。

 彼女らの写真を撮り終えた私は、蓄音機の用意をはじめ、そのあいだにエガワが昼食の準備をした。(中略)彼らが蓄音機を体験した喜びを見て、私はすっかり満足した。彼らはいまだかつて、これらのどの一曲も聞いたことがなかった。まず理解できなかっただろうが、十分に楽しんでいた。P254

写真は、コミカルな音楽を聴いたあとのもである。P256 こちらは軍楽調の音楽を聴いたあとで撮られたものである。P257

 長い時間をかけて旅行できる幸せに、いささか羨望の念を感じる。
私の旅行ももう少し長く、しかも地元に密着して行いたい。
楽しい旅行記だった。
広告



    感想・ご意見などを掲示板にどうぞ
参考:
赤松啓介「夜這いの民俗学」明石書店、1984
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
今一生「ゲストハウスに住もう!」晶文社、2004年
クライブ・ポンティング「緑の世界史 上・下」朝日新聞社、1994
ダイアン・コイル「脱物質化社会」東洋経済新報社、2001
谷田部英正「椅子と日本人のからだ」晶文社、2004
塩野米松「失われた手仕事の思想」中公文庫 2008(2001)
青山二郎「青山二郎文集」小沢書店、1987
エドワード・T・ホール「かくれた次元」みすず書房、1970
オットー・マイヤー「時計じかけのヨーロッパ」平凡社、1997
ロバート・レヴィーン「あなたはどれだけ待てますか」草思社、2002

谷田部英正「椅子と日本人のからだ」晶文社、2004年 
ヘンリー・D・ソロー「森の生活」JICC出版局、1981
野村雅一「身ぶりとしぐさの人類学」中公新書、1996
永井荷風「墨東綺譚」新潮文庫、1993
服部真澄「骨董市で家を買う」中公文庫、2001
エドワード・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、2000
高見澤たか子「「終の住みか」のつくり方」集英社文庫、2008
矢津田義則、渡邊義孝「セルフ ビルド」旅行人、2007
黒沢隆「個室群住居」住まいの図書館出版局、1997
増田小夜「芸者」平凡社 1957
福岡賢正「隠された風景」南方新社、2005
イリヤ・プリゴジン「確実性の終焉」みすず書房、1997
エドワード・T・ホール「かくれた次元」みすず書房、1970
オットー・マイヤー「時計じかけのヨーロッパ」平凡社、1997
ロバート・レヴィーン「あなたはどれだけ待てますか」草思社、2002
増川宏一「碁打ち・将棋指しの誕生」平凡社、1996
宮本常一「庶民の発見」講談社学術文庫、1987
青木英夫「下着の文化史」雄山閣出版、2000
瀬川清子「食生活の歴史」講談社、2001
鈴木了司「寄生虫博士の中国トイレ旅行記」集英社文庫、1999
李家正文「住まいと厠」鹿島出版会、1983
ニコル・ゴンティエ「中世都市と暴力」白水社、1999
武田勝蔵「風呂と湯の話」塙書店、1967
ペッカ・ヒマネン「リナックスの革命」河出書房新社、2001
R・L・パーク「私たちはなぜ科学にだまされるのか」主婦の友社、2001
平山洋介「住宅政策のどこが問題か」光文社新書、2009
松井修三「「いい家」が欲しい」三省堂書店(創英社)
匠雅音「家考」学文社
バーナード・ルドルフスキー「さあ横になって食べよう」鹿島出版会、1985
黒沢隆「個室群住居」住まいの図書館出版局、1997
S・ミルグラム「服従の心理」河出書房新社、1980
李家正文「住まいと厠」鹿島出版会、1983
ペッカ・ヒマネン「リナックスの革命 ハッカー倫理とネット社会の精神」河出書房新社、2001
マイケル・ルイス「ネクスト」アウペクト、2002
ジョルジュ・F・ビゴー「ビゴー日本素描集」岩波文庫、1986年

「匠雅音の家族について本を読む」のトップにもどる