匠雅音の家族についてのブックレビュー   日本マスコミ「臆病」の構造−なぜ真実が書けないのか|ベンジャミン・フルフォード

日本マスコミ「臆病」の構造
なぜ真実が書けないのか
お奨度:

著者:ベンジャミン・フルフォード   宝島社 2005年  ¥952−

 著者の略歴−外交官を父にもつカナダ生まれのカナダ人。1960年代に、キューバ、メキシコで暮らす。
 我が国の最近の空気は、真綿で首を絞めるように、しかも、見えない管理が進んでいるように感じる。
個人情報保護法しかり、皇室報道しかり、自己責任論しかり。
なんだかトンデモナイ社会に向かっているようだ。
社会の不穏な動きに、批判の目を向けるのが、マスコミのはずだが、これがまったく当てにならない。
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 我が国のマスコミ、とりわけ大手の新聞や放送局は、大本営よろしく官報である。
権力者側の記者クラブ発表を、ほぼそのまま記事にしているだけ。
各社が独自の視点で、事実を報道しているマスコミは、皆無と言っていい。
そして、権力側に都合の悪いことは、報道しないという不作為の犯罪を犯している。

 筆者は、かつて「The Nikkei Weekly」に勤務したり、「フォーブス」の極東編集長をつとめた人で、
我が国をこよなく愛するがゆえに、事実を事実としてみようとしてきた。
大手のマスコミは、情報を知っていながら報道しない。
そこから彼が導きだした結論は、次の言葉だった。

 私はその極度の「事なかれ主義」を軽蔑し、それ以来、日本の大手新聞、テレビの報道にかけるスピリッツをさほど信用しなくなった。
 だからいまでは、日本で信頼できるのは、まず右翼の街宣車。次に週刊誌と夕刊紙。そして大手紙や民放テ
レビ、最後がNHKという、一般的日本人とはかなり異なる基準を持っている。P9

 89ページに書かれている日本新聞協会の「信頼できるメディア」の調査結果とは、
まったく反対のランキングだと筆者は笑っている。
しかし、右翼の街宣車を別にすれば、国民の多くの見方は、筆者の基準に近いのではないだろうか。

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 政治家や官僚は、国民の幸福のために行動するのであり、
自分の利益のために行動するのではない。
しかし、権力者はおうおうにして専制的になる。
そこでどうしても、権力者の批判者が必要になる。
多くの先進国では、マスコミはジャーナリズムといわれて、権力者の批判を旨としている。
しかし我が国では、マスコミが第4の権力といわれて久しい。
マスコミへの信頼度は、警察以下だ。

 本書は、イラク人質事件、小泉純一郎のヤクザ問題、皇室問題、武富士問題、NHKの海老沢会長事件、住専問題などをあつかいながら、
我が国のマスコミへの批判と同時に、マスコミの再生を願ったものだ。

 批判のないところには、まっとうな精神は育たない。
批判は人格攻撃ではない。
先進国といわれながら、いまだに前近代的な因習から、逃れられない我が国の政財官。
臭いものには蓋をし、支配層に近い者が有利な社会。
 
 面倒なことには首を突っ込まないという、「事なかれ主義」が、マスコミの間で広がった結果、「利権」だけが取り残されていく。ニュースの取り扱いについて良いか、悪いかの判断ではなく、面倒なことが起きるか、起きないかで判断されれば、そうなるのも当然だ。それは、もはやタブーが「差別」ではなく「利権」に移ったことを意味する。タブーを利用して、利権を暴かせない状況は、面倒を恐れて書かないマスコミが作り出しているのだ。P128

 日経だけではない。誰かが石を投げるまでは何もするな、というこの基本スタンスは、すべての大手メディアに共通していた。それは「ソフトなファシズム」とでもいうべき体質だった。記事にはしないという信念、スタンスがあるのなら、ウチでは書けないとはっきり理由を示してくれればいい。ところが、現場レベルでは、「これは面白い」といったニュアンスがあるのに、いざ記事を書くとボツになるのだ。そして、きまって慰められる。「きっといつか書けるよ」。この繰り返しだった。P165

 こうしたなれ合いを続けていけば、我が国の将来は暗い。
かつて世界第2位の富裕国だったアルゼンチンが、いまでは途上国へと転落してしまったように、
我が国もその轍を踏むかも知れない。
そんな空気を感じるのは、筆者だけではなく、当サイトも同感である。

 真実を直視することは、必ずしも心地よいとは限らない。
上司の不正を糺したり、顧客からの無体な注文を断ることは困難ですらある。
しかし、真実だけが正しいのであり、真実に近づこうとする努力だけが、公平さを維持して成長を持続させる。
とりわけ、マスコミには真実から逃げない資質が要求されている。   (2007.11.6)
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参考:
松原岩五郎「最暗黒の東京」岩波文庫、1988
鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001
小田晋「少年と犯罪」青土社、2002
リチヤード・B・ガートナー「少年への性的虐待」作品社、2005
広岡知彦と「憩いの家」「静かなたたかい」朝日新聞社、1997
高山文彦「地獄の季節」新潮文庫、2001 
マイケル・ルイス「ネクスト」潟Aスペクト、2002
服部雄一「ひきこもりと家族トラウマ」NHK出版、2005
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972
ロイス・R・メリーナ「子どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005
瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972年

芹沢俊介「母という暴力」春秋社、2001
鈴木邦男「公安警察の手口」ちくま新書、2005
高沢皓司「宿命」新潮文庫、2000
見沢知廉「囚人狂時代」新潮文庫、2000
ジョン・ハワード「18世紀ヨーロッパ監獄事情」岩波文庫、1994
山本譲司「累犯障害者」新潮社、2006
足立正生「塀の中の千夜一夜」愛育社、2005
三浦和義「弁護士いらず」太田出版、2003
浅野健一「犯罪報道の犯罪」新風舎文庫、2005
山崎哲「<物語>日本近代殺人史」春秋社、2000
菊田幸一「日本の刑務所」岩波新書、2002
有村朋美「プリズン・ガール」新潮文庫、2005
佐藤清彦「にっぽん心中考」文春文庫、2001
管賀江留郎「戦前の少年犯罪」築地書館 2007
浜田 寿美男「自白の研究」三一書房、1992
小田晋「少年と犯罪」青土社、2002
鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001
流山咲子「女子刑務所にようこそ」洋泉社、2004
藤木美奈子「女子刑務所」講談社文庫、2001
ヨシダトシミ「裁判裏日記」成美堂出版 2008
小室直樹「痛快!憲法学」集英社、2001
芦部信喜「憲法判例を読む」岩波書店、1987
D・T・ジョンソン「アメリカ人のみた日本の検察制度」シュプリンガー・フェアラーク東京、2004
河合幹雄「安全神話崩壊のパラドックス」岩波書店、2004

河合幹雄「日本の殺人」ちくま新書、2009

佐藤常雄「貧農史観を見直す」講談社現代新書、1995

ジェリー・オーツカ「天皇が神だったころ」アーティストハウス、2002
小田部雄次「ミカドと女官」恒文社、2001
加納実紀代「天皇制とジェンダー」インパクト出版会、2002
原武史「大正天皇」朝日新聞社、2000
河原敏明「昭和の皇室をゆるがせた女性たち」講談社、2004年


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