著者の略歴−外交官を父にもつカナダ生まれのカナダ人。1960年代に、キューバ、メキシコで暮らす。 我が国の最近の空気は、真綿で首を絞めるように、しかも、見えない管理が進んでいるように感じる。 個人情報保護法しかり、皇室報道しかり、自己責任論しかり。 なんだかトンデモナイ社会に向かっているようだ。 社会の不穏な動きに、批判の目を向けるのが、マスコミのはずだが、これがまったく当てにならない。
我が国のマスコミ、とりわけ大手の新聞や放送局は、大本営よろしく官報である。 権力者側の記者クラブ発表を、ほぼそのまま記事にしているだけ。 各社が独自の視点で、事実を報道しているマスコミは、皆無と言っていい。 そして、権力側に都合の悪いことは、報道しないという不作為の犯罪を犯している。 筆者は、かつて「The Nikkei Weekly」に勤務したり、「フォーブス」の極東編集長をつとめた人で、 我が国をこよなく愛するがゆえに、事実を事実としてみようとしてきた。 大手のマスコミは、情報を知っていながら報道しない。 そこから彼が導きだした結論は、次の言葉だった。 私はその極度の「事なかれ主義」を軽蔑し、それ以来、日本の大手新聞、テレビの報道にかけるスピリッツをさほど信用しなくなった。 だからいまでは、日本で信頼できるのは、まず右翼の街宣車。次に週刊誌と夕刊紙。そして大手紙や民放テレビ、最後がNHKという、一般的日本人とはかなり異なる基準を持っている。P9 89ページに書かれている日本新聞協会の「信頼できるメディア」の調査結果とは、 まったく反対のランキングだと筆者は笑っている。 しかし、右翼の街宣車を別にすれば、国民の多くの見方は、筆者の基準に近いのではないだろうか。
自分の利益のために行動するのではない。 しかし、権力者はおうおうにして専制的になる。 そこでどうしても、権力者の批判者が必要になる。 多くの先進国では、マスコミはジャーナリズムといわれて、権力者の批判を旨としている。 しかし我が国では、マスコミが第4の権力といわれて久しい。 マスコミへの信頼度は、警察以下だ。 本書は、イラク人質事件、小泉純一郎のヤクザ問題、皇室問題、武富士問題、NHKの海老沢会長事件、住専問題などをあつかいながら、 我が国のマスコミへの批判と同時に、マスコミの再生を願ったものだ。 批判のないところには、まっとうな精神は育たない。 批判は人格攻撃ではない。 先進国といわれながら、いまだに前近代的な因習から、逃れられない我が国の政財官。 臭いものには蓋をし、支配層に近い者が有利な社会。 面倒なことには首を突っ込まないという、「事なかれ主義」が、マスコミの間で広がった結果、「利権」だけが取り残されていく。ニュースの取り扱いについて良いか、悪いかの判断ではなく、面倒なことが起きるか、起きないかで判断されれば、そうなるのも当然だ。それは、もはやタブーが「差別」ではなく「利権」に移ったことを意味する。タブーを利用して、利権を暴かせない状況は、面倒を恐れて書かないマスコミが作り出しているのだ。P128 日経だけではない。誰かが石を投げるまでは何もするな、というこの基本スタンスは、すべての大手メディアに共通していた。それは「ソフトなファシズム」とでもいうべき体質だった。記事にはしないという信念、スタンスがあるのなら、ウチでは書けないとはっきり理由を示してくれればいい。ところが、現場レベルでは、「これは面白い」といったニュアンスがあるのに、いざ記事を書くとボツになるのだ。そして、きまって慰められる。「きっといつか書けるよ」。この繰り返しだった。P165 こうしたなれ合いを続けていけば、我が国の将来は暗い。 かつて世界第2位の富裕国だったアルゼンチンが、いまでは途上国へと転落してしまったように、 我が国もその轍を踏むかも知れない。 そんな空気を感じるのは、筆者だけではなく、当サイトも同感である。 真実を直視することは、必ずしも心地よいとは限らない。 上司の不正を糺したり、顧客からの無体な注文を断ることは困難ですらある。 しかし、真実だけが正しいのであり、真実に近づこうとする努力だけが、公平さを維持して成長を持続させる。 とりわけ、マスコミには真実から逃げない資質が要求されている。 (2007.11.6)
参考: 松原岩五郎「最暗黒の東京」岩波文庫、1988 鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001 小田晋「少年と犯罪」青土社、2002 リチヤード・B・ガートナー「少年への性的虐待」作品社、2005 広岡知彦と「憩いの家」「静かなたたかい」朝日新聞社、1997 高山文彦「地獄の季節」新潮文庫、2001 マイケル・ルイス「ネクスト」潟Aスペクト、2002 服部雄一「ひきこもりと家族トラウマ」NHK出版、2005 塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002 瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972 ロイス・R・メリーナ「子どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005 瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972年 芹沢俊介「母という暴力」春秋社、2001 鈴木邦男「公安警察の手口」ちくま新書、2005 高沢皓司「宿命」新潮文庫、2000 見沢知廉「囚人狂時代」新潮文庫、2000 ジョン・ハワード「18世紀ヨーロッパ監獄事情」岩波文庫、1994 山本譲司「累犯障害者」新潮社、2006 足立正生「塀の中の千夜一夜」愛育社、2005 三浦和義「弁護士いらず」太田出版、2003 浅野健一「犯罪報道の犯罪」新風舎文庫、2005 山崎哲「<物語>日本近代殺人史」春秋社、2000 菊田幸一「日本の刑務所」岩波新書、2002 有村朋美「プリズン・ガール」新潮文庫、2005 佐藤清彦「にっぽん心中考」文春文庫、2001 管賀江留郎「戦前の少年犯罪」築地書館 2007 浜田 寿美男「自白の研究」三一書房、1992 小田晋「少年と犯罪」青土社、2002 鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001 流山咲子「女子刑務所にようこそ」洋泉社、2004 藤木美奈子「女子刑務所」講談社文庫、2001 ヨシダトシミ「裁判裏日記」成美堂出版 2008 小室直樹「痛快!憲法学」集英社、2001 芦部信喜「憲法判例を読む」岩波書店、1987 D・T・ジョンソン「アメリカ人のみた日本の検察制度」シュプリンガー・フェアラーク東京、2004 河合幹雄「安全神話崩壊のパラドックス」岩波書店、2004 河合幹雄「日本の殺人」ちくま新書、2009 佐藤常雄「貧農史観を見直す」講談社現代新書、1995 ジェリー・オーツカ「天皇が神だったころ」アーティストハウス、2002 小田部雄次「ミカドと女官」恒文社、2001 加納実紀代「天皇制とジェンダー」インパクト出版会、2002 原武史「大正天皇」朝日新聞社、2000 河原敏明「昭和の皇室をゆるがせた女性たち」講談社、2004年
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