著者の略歴− 1959年大阪市生まれ。大阪市立大学経済学部中退。2年間のアフリカでの空手指導、女子刑務所看守、人材派遣会社役員など、さまざまな職を経て、1990年より執筆・企画制作業「AMIDA」を営む。1994年より、女性の自立支援NPO法人「WANA関西」(会員180名)代表。雇用を選べない女性たちの、独立開業という形の経済的自立を支援している。また家庭内暴力の体験者でもあり、独自の人生観による講演・講座で、多くの女性を励ましている。著書に「10年後はもっと働ける」出版文化社、「2047年の就職・転職情報」共著 発行・ライブストーン 発売・星雲社がある。http://www.wana.gr.jp/ 男性の刑務所にかんしては、すでに多くの本が書かれている。 受刑者から書かれたものも多い。 しかし、看守が書いたものは少ない。 本書は2年間の看守体験を記したもので、看守から見た受刑者と看守自身の観察記である。
女性の単親家庭で育ち、13歳から空手を学ぶ。 全国大会まで出場するが、精神的には追いつめられた生活をしている。 初めて結婚した男性とは、家庭内暴力にみまわれ、八方ふさがりの状態だった。 そこで職業は、交友関係の狭い刑務官である。 彼女の人生には、広がっていくという方向性がなかった。 そんな彼女は、現在では再婚して子供にも恵まれ、幸せな生活を営んでいる。 だから自分の生活を、冷静にふりかえることができる。 看守とは厳しい職業であるらしいとは、すでに知ってはいた。 刑務官と呼ばれる公務員は、法務省の官僚制度のもと、上級職と現場の職員からなり、上級職は出世していくエリートである。 そのため、刑務所にきてもお客さんで過ごす。 現場のよごれ仕事は一生にわたって刑務所に勤務する人たちが担っている。 看守の勤務時間は不規則である。 別種の人間とされている人々との付き合いになるから、特別な環境が看守自身に与える影響も大きい。 わが国の刑務所は、国連から人権侵害の疑いがもたれるほど、囚人たちを過酷に扱っている。 刑務所はいまだに監獄法が通用し、まったく前近代である。 囚人を過酷に扱うところでは、それを管理するほうにも過酷になるのは当然である。 わが国の刑罰は、罪刑法定主義であるにもかかわらず、まだまだ懲罰的な色彩が色濃く残っている。 そのため、看守たちも何時しか、自分が懲罰するつもりになってしまう。 筆者はそれを次のように戒めている。 その人がそこにいること、これこそが罪をつぐなうことなのであって、看守や職員が代わってその責めを行うのは本筋ではないと考えるからだ。P249
管理しようとすれば、舐められてはいけないと、強権的にならざるをえない。 しかし、受刑者はしたたかである。 新米の看守など、へでもない。センセイと呼んで、冷やかすのである。 緊張で混乱する私の心中を見すかしているかのように、彼女(=受刑者のこと)たちは、慣れた手つきで掃除をしながらもチラリ、チラリとこちらをうかがっている。見慣れない私を観察しているのだ ろう。しばらくして、ただボーツと突っ立っている私に向かって、ひとりの受刑者が近づいてきた。私の脈拍が一挙に上昇し、耳が赤くなるのを感じた。心臓の音が彼女に聞こえないかと心配だった。その受刑者は40代半ばくらいだろうか。もちろん、素顔である。 舐められないようにと看守も、新米のうちは緊張する。 人間はみな平等といっても、刑務所のなかでは利害が対立している。 看守はみずから選んだ職業であるが、受刑者は不本意にも行動を制限された人たちである。 受刑者たちはおとなしくして、一日も早く出所したいに決まっている。 しかし、刑務所が生活の場であれば、そこで生きるしかないので、泣き笑いが生まれるわけである。 女性の刑務所は、男性の刑務所と違うらしい。 私たちは女子刑務所で働く人間だが、男子施設はやはり女子のそれとは、さまざまな点でちがっていると感じた。 まず、塀も高いし、守りも厳重である。和歌山刑務所(=筆者の勤務する刑務所)の建物も古いが、大阪刑務所はもっと古めかしい。ここに積まれているレンガは、かつてすべて受刑者の手によって積まれ、舎房や、各室のサイズも明治時代のままと聞いた。 そういう意味で言えば、大阪刑務所は私が見た施設の中でも、もっとも刑務所らしい建物だった。暗く、いかめしく、厳然としていた。とくに独居部屋はかなりの迫力に満ちている。短いながら看守経験のある私たちでさえ、ちょっとゾツとする様相だった。P159 現在も女性の犯罪は増えている。 その半分が覚醒剤関係だという。 男性の犯罪は多岐にわたっているが、女性は覚醒剤に集中している。 男性支配の現代社会が、女性を受け身的にしているからであろう。 しかし、女性が台頭する今後は、女性も男性と同じような犯罪をおかすようになる。 家庭内暴力というと、男性から女性へ暴力がふるわれるように想像する。 が、2001年の1〜5月に検挙された家庭内暴力による殺人件数は、夫によるもの51件、妻によるもの29件である。 男女の平等は、不可避的に犯罪にも反映する。 最底辺にこそ、人権の真実の表現がある。 筆者も訴えているが、刑務所の待遇を改善すべきである。 それは受刑者のためだけではない。 看守のためでもあり、国民のためでもあるのだ。 (2003.2.28)
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