匠雅音の家族についてのブックレビュー    女と文明|梅棹忠夫

女と文明 お奨度:☆☆

著者:梅棹忠夫(うめさお・ただお)−−中央公論社、1988、¥1、340−

著者の略歴−1920年,京都府に生まれる。1943年、京都大学理学部動物学科卒業。大阪市立大学助教授,京都大学人文科学研究所教授を経て,現在国立民族学薄物館長。専攻:民族学・比較文明論。
著書:『モゴール族探検記』、『東南アジア紀行』、『サバンナの記録』、『地球時代の日本人』、『文明学の構築のために』、『美意識と神さま』、『博物館長の十年』、『情報の文明学』



 女性論と家庭論にかんして、1950〜60年代にかけて書いたものをまとめたのが本書である。
しかし、その後に書かれた女性論や家庭論は、本書を超えたとはとても言えない。
本書の価値は今になってもいささかも減じてはいない。
多くの女性フェミニストたちが、いまだに妻であることに拘っているのに対して、筆者は今から50年近く前に「妻無用論」を書いている。
当時は高度成長期だったから、性別による役割分担がますます強固なものとなり、とても筆者の論は賛同されなかった。
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女と文明 (中公叢書)

 筆者の論の優れている理由は、個別的な男女と制度としての社会的な男女を、はっきりと区別していることである。
今の言葉でいえば、性別と性差の位相の違いを認識している。
未だに両者の位相の違いが判らないフェミニスト学者が多いなかで、筆者の慧眼は群を抜いている。 
1960年代に「家族の解体」を筆者は書いている。
それには次のように書かれている。

 人間は、もはやこのほこるべき伝統にかがやく一夫一妻的家族を解消するほかない。完全な 男女同権へのつよい傾向は、必然的にわたしたちをそこへみちびいてゆくであろう。男を主権者として、それに子どもを配する男家族と、女を主権者として、それに子どもを配する 女家族とが、ときに応じていろいろなくみあわせによって臨時の結合をする、というようなことに でもなるのだろうか、わたしにもよくわからない。P23

 筆者はよくわからないと言いながら、40年後の今日進行している状況を的確に読み当てている。
また、男女関係に関しても、

 女の男性化というといいすぎだが、男と女の、社会的な同質化現象は、さけがたいのではないだろうか。そして、今後の結楯生活というものは、社会的に同質化した男と女との共同生活、というようなところに、しだいに接近してゆくのではないだろうか。それはもう、夫と妻という、社会的にあいことなるものの相補的関係というようなことではない。女は、妻であることを必要としない。そして、男もまた、夫であることを必要としないのである。P94

と言っている。
しかも、子供誕生に母胎がかかわるのは妊娠から出産までであり、育児は社会的な活動であり、女性だけが行うものではないとも言っている。
いずれも私の論と同じ視点であり、この先達に頭を下げる他はない。

 筆者は比較文明論が専攻で、よく外国を歩いている。
その時の目が、庶民の生活の次元にあり、生活する人を偏見なく見るが故に時代もよく見えるのだろう。
私が今アジアを歩いているのも、わが国の時代を知るためだが、筆者はこの面でも私の先達である。
 
 本書は、家族論や女性論を読むにあたって、一番初めに読むべきものである。
平易な文章であるが、本書から教えられたことは非常に多かった。 
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参考:
杉田俊介「フリーターにとって「自由」とは何か」人文書院、2005年
塩野米松「失われた手仕事の思想」中公文庫  2008年
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」筑摩書房、1994
江藤淳「成熟と喪失:母の崩壊」河出書房、1967
増田小夜「芸者」平凡社 1957
岩下尚史「芸者論」文春文庫、2006
スアド「生きながら火に焼かれて」(株)ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、2004
大塚英志「「彼女たち」の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952
スーザン・ファルーディー「バックラッシュ」新潮社、1994
井上章一「美人論」朝日文芸文庫、1995
ウルフ・ナオミ「美の陰謀」TBSブリタニカ、1994
杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994
ジョンソン桜井もよ「ミリタリー・ワイフの生活」中公新書ラクレ、2009
佐藤昭子「私の田中角栄日記」新潮社、1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003
光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」草思社、1997
奥地圭子「学校は必要か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもからの自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ミレイユ・ラジェ「出産の社会史 まだ病院がなかったころ」勁草書房、1994

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