匠雅音の家族についてのブックレビュー   働くママが日本を救う!−「子連れ出勤」という就業スタイル|光畑由佳

働くママが日本を救う!
「子連れ出勤」という就業スタイル
お奨度:

著者:光畑由佳(みつはた ゆか)   マイコミ新書 2009年 ¥780−

著者の略歴− 倉敷市生まれ.お茶の水女子大学被服学科を卒業後、パルコで美術企画を担当.その後、建築関係の出版社を経て、自身の出産・育児体験を基に、「授乳服」の製作を開始.おっぱいライフを快適にする授乳服を通じて、女性が自分らしいライフスタイルを楽しめることを支援する「モーハウス」を設立.また、出産・育児という人生の節目を迎えた女性のライフデザインを支援する活動団体「マザー・ライフ・アソシエーション(通称:らくふあむ)」の立ち上げを進めている.3児の母.モーハウス:http://www.mo-house.net/
 モーハウスという授乳服を販売する会社が、子連れ出勤をしているという。
その会社の代表が、本書の筆者である。
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働くママが日本を救う!

 20年前、子連れ出勤をめぐって、アグネス論争なるものがあった。
職場に子供を連れてきても良いだろうというアグネス・チャンに対して、林真理子や中野翠などの独身女性が、職場は神聖だ、子供など連れてくるところではない、と攻撃したのだ。
どちらが正しかったか、その結末は、すでに明らかだろう。

 子育ては、がんらい1人の専従者が、家庭に閉じこもってやるものではない。
働くかたわら、子育てをしたのが、長い人間の歴史だった。
しかし、働くためだけの場所、会社や役所ができて、働く以外の人は閉め出され、家族が分断されてきた。
筆者は、授乳期にある子供でも、会社に連れてくれば良いではないか、という。
そして、自分の会社でそれを実践している。
 
 小さな子供と、成人の生活パターンは違う。
それを無視して、大人の生活に子供を合わせようとすれば、破綻するのは目に見えている。
そこで、次のような工夫をしている。

 そこで、私たちの場合は、その中に子どもを連れてくる場合には、「勤務時間を少なめにする」「頻度を少なめにする」「連れて動きやすい時間帯にする」などの対処で、お互いの負担感を少なくすることを心がけています。
 そもそも存在する環境を、初めから大きく変革することは困難です。ですから、お互いにあゆみよることで、新しい形を作り上げていく必要があるのです。P162


 1日8時間労働ではなく、4時間とか5時間といったように、短い勤務時間を設定する。
そして、毎日出社するのではなく、隔日とか週に2日といった具合にするのだそうである。
連れて動きやすい時間とは、9時からではなく、12時からとか、1時からといった勤務時間を選んでもらうのだ。

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 働くママが日本を救うとは、ちょっと大げさだが、今後は、男性労働力だけではやっていけないだろう。
とすれば、女性も働き手となるだろうが、その時に、出産・育児の問題が障害となる。
子供が生まれてしまうと、今の労働環境では、働き続けることができなくなる。

 女性たちも、育児のために家庭に閉じこもってしまうと、社会性が切れてしまいことが怖い。
また、長い育児休暇明けで、職場復帰できるか不安である。
そこで、出産後も働き続けたいのだが、現在の職場環境はそれを許さない。
結局、出産退社に追い込まれてしまい、子育て後はパート労働ということになる。
これでは何のために、男性と同じ教育を受けたのか判らない。

 筆者は、子連れ出勤を、どの職種・どの職場にも薦めているわけではない。
さまざまな働き方の一つとして、子連れ出勤もアリではないか、といっている。
まったくそのとおりである。
子供を連れてきても、問題ない職場はたくさんあるだろう。
重機が動いているような危険な職場は、子供を入れるのは無理だろう。
しかし、案外に子供をおいても、大丈夫な職場は多いはずだ。

 商店や小さな事務所では、子供がウロチョロするのは、当たり前の風景である。
また、本書がいうように、フルタイムでなければ、そうとうの職場が子供付きでも、受け入れることは可能だろう。
まず、子連れ出勤をやってみる価値は、充分にある。

 それにしても、羞恥心とは怖いものである。
かつては、授乳の姿を見られても、いや乳房を見られても、女性たちは恥ずかしいとは感じなかった。
平気で男たちに、乳房をさらしたものだ。
それがいつの間にか、授乳の姿も、また乳房も見せることが、羞恥の対象になってしまった。
その結果、次のような現象になった。

 (やむを得ず電車の中で授乳を決行したところ)注目を浴びています。なんだかごそごそしているし、隠すものも持っていません。
 じろじろとあからさまに見られることはないまでも、
「えっ! あの人、こんなところでおっぱいをあげているよ! すごいもの見ちゃった」
という、周囲の心の声が聞こえてくるようでした。P8


 実際には見られても、チラチラッとだろうし、また見られたからって、どうっていうことはない。
にもかかわらず、視線を感じただけで、羞恥心があるために萎縮していくのだ。
ここから筆者は、授乳服の販売を思いつくのだが、マスク掛けといい廻りの目線というのは、日本人には恐怖を覚えさせるものなのだろう。

 世界のフェミニズムは、女性からブラジャーを外させた。
しかし、我が国の女性たちは、とうとうブラジャーを外さなかった。
みんなで渡れば怖くないで、誰も最初には渡らない国民なのだろうか。
衆目におびえる幼稚な精神構造にも、暗澹とさせられた。
そして、本書の提案を、そのとおりと肯定すると同時に、やはり安価な保育所が不可欠である、とも感じた。     (2009.6.7)
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参考:
G・エスピン=アンデルセン「福祉国家の可能性」桜井書店、2001
G・エスピン=アンデルセン「ポスト工業経済の社会的基礎」桜井書店、2000
芹沢俊介「母という暴力」春秋社、2001
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」筑摩書房、1994
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
須藤健一「母系社会の構造:サンゴ礁の島々の民族誌」紀伊国屋書店、1989
エリザベート・パダンテール「母性という神話」筑摩書房、1991
斉藤環「母は娘の人生を支配する」日本放送出版協会、2008
ナンシー・チョドロウ「母親業の再生産」新曜社、1981
石原里紗「ふざけるな専業主婦」新潮文庫、2001
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イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」筑摩書房、1994
江藤淳「成熟と喪失:母の崩壊」河出書房、1967
増田小夜「芸者」平凡社 1957
岩下尚史「芸者論」文春文庫、2006
スアド「生きながら火に焼かれて」(株)ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001
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梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
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松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、2004
大塚英志「「彼女たち」の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
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細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
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赤松良子「新版 女性の権利」岩波書店、2005
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ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
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鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」二見書房、2007
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杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994
ジョンソン桜井もよ「ミリタリー・ワイフの生活」中公新書ラクレ、2009
佐藤昭子「私の田中角栄日記」新潮社、1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003
光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」草思社、1997
奥地圭子「学校は必要か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもからの自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ミレイユ・ラジェ「出産の社会史 まだ病院がなかったころ」勁草書房、1994
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997


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