匠雅音の家族についてのブックレビュー    女は結婚すべきではない−選択の時代の新シングル感覚|シンシア・S・スミス

女は結婚すべきではない 
選択の時代の新シングル感覚
お奨度:

著者:シンシア・S・スミス−中公文庫、2000年  ¥819−

著者の略歴−医者の妻向けの雑誌、Medical/Mrs.の元編集長で、これまでに「Doctor's Wives:The Truth About Medical Marriages」と「The Seven Levels of Marriage」などの著作がある。全米で講演をおこない、42大学でセミナーを開催し、ニューヨーク大学とコネチカット大学で教員をつとめた。ニューヨーク州ライ在住。
 現代は、女性が幸せを求めて「結婚」し、「誰かの妻」になるような時代ではない。自分自身の「選択の時代」である。P16

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 アメリカで1988年に出版された本書は、今ではもう古いとしかいいようがない。
選択の時代だって! 
専業主婦もありだって! 
1980年代はアメリカでも過渡期だった。
にもかかわらず、今日のわが国では、本書のレベルまですら到達していない。
わが国が追いつくのは、いつになるのだろう。

 工業社会つまり近代においては、女性の職業がなかった。
だから女性は結婚せざるをえなかった。
しかし、情報社会では男女の体力差が無化され、労働に性別は関係なくなった。
脱性的な労働が主流になってきたので、女性も完全な労働力となりうる。
女性も独力で生活ができる。
当然のこととして、結婚に必然性はなくなった。

 1920年になるまでは、女佐には投票権すらも与えられなかった。ただの女が政治や政府や法律、財政、ビジネス、人生のことなど知るよしもない、と。女には、彼女の世話をする男こそが必要だった。  P57

 しかし、いまや男性との付き合いを望むなら、独身のままで何も困ることはない。
身体さえ丈夫なら、独身者の恋愛はいつでもできる。セックスだって、結婚しなくてもできる。
むしろ結婚してしまうと、セックスの相手は限られてしまう。
独身女性のほうがもてる。

 経済的な問題のために、結婚する必要のない女性にとっては、子供をもつことが結婚に残された意味であったが、それも人工授精が解決してくれる。
経済力さえあれば、男性に頼る必要なまったくない。
いまや男性との付き合いは、完全に精神的なもの、そしてセックスだけである。
養う・養われるといった不純な動機が、結婚への決断だった時代は終わった。

 結婚は、幸せな人生の道にもなりえる。結婚の関係を十分に楽しんでいるカップルもたくさんいるし、実際、結婚を望むカップルもあとを絶たない。しかし、今や、結婚と同じように社会的に認められているライフスタイルも他にある。結婚が唯一の人生の道とは考えられなくなり、単に、多々あるライフスタイルのうちで、もしかしたら選ぶかもしれないという程度の一形態なのだ。P78

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 結婚はさまざまのしがらみを発生させもする。
宗教色の強い両親がいれば、それに合わせることも要求されるだろう。
男性も家庭に目をやるようにはなったが、家事をする男性はまだ少ない。
家事は女性の方にのしかかる。
仕事をすることは、男性になみに要求されて、そうのえ家事もしなければならない。

子供でも生まれたら最悪である。
生活上の趣味の違いがあるにも関わらず、セックスの相性がいい男性もいる。
こうした男性と結婚するより、セックスに限定して独身のままで付き合ったほうがいい。
そう考えても何の不思議もない。

 現代では、聖職者の手を借りずに、一緒に住むというスタイルは、昔よりも実行しやすいとはいうものの、やはり、慣習や両覿のプレッシャーとは闘わなくてはならない。社会がそのようにお膳立てしている限り、結婚するほうがそもそも受け身で、結婿を避けるほうが積極的な行為となる。P97

 情報後進国のわが国では、いまだに結婚が女性の幸福のようである。
それはわが国の制度が、結婚に有利で非婚には不利なせいでもある。
女性の労働をきちんと評価しない。
女性の賃金が低い。
わが国では、女性は子供を産む生き物だと見ている。
だから女性がそうした風潮と闘うには、荷が重すぎるのである。
しかし、アメリカの流れは早晩わが国でも普通となるだろう。
女性という個人にまかせきりで、女性の働く環境をととのえないと、女性たちは子供生まなくなる。

 アメリカの子どもたちの24%が片親と暮らしている。片親と住む18歳以下の子どもの数は、1960年の580万人から、1986年の集計では1480万人に増えている。片方の親と住んでいる子どものうち、27%が親が一度も結解したことがない所帯の子どもである。P103

 時代は着実に進んでいる。
女性の労働力を使わなければ、時代に取り残されてしまう。
個人がすべて同じ条件で競争を迫られる。
独身生活が便利になり、男性も結婚を望まなくなる。
女性たちも家庭を言い訳にはできない。
情報社会とは厳しい時代でもある。
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参考:
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭 痛快子育て記」講談社文庫、1993
イヴォンヌ・クニビレール、カトリーヌ・フーケ「母親の社会史」筑摩書房、1994
江藤淳「成熟と喪失:母の崩壊」河出書房、1967
増田小夜「芸者」平凡社 1957
岩下尚史「芸者論」文春文庫、2006
スアド「生きながら火に焼かれて」(株)ソニー・マガジンズ、2004
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
梅棹忠夫「女と文明」中央公論社、1988
ラファエラ・アンダーソン「愛ってめんどくさい」ソニー・マガジンズ、2002
まついなつき「愛はめんどくさい」メディアワークス、2001
J・S・ミル「女性の解放」岩波文庫、1957
ベティ・フリーダン「新しい女性の創造」大和書房、1965
クロンハウゼン夫妻「完全なる女性」河出書房、1966
松下竜一「風成(かざなし)の女たち」現代思想社、1984
モリー・マーティン「素敵なヘルメット職域を広げたアメリカ女性たち」現代書館、1992
小野清美「アンネナプキンの社会史」宝島文庫、2000(宝島社、1992)
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ジェーン・バートレット「「産まない」時代の女たち」とびら社、2004
楠木ぽとす「産んではいけない!」新潮文庫、2005
山下悦子「女を幸せにしない「男女共同参画社会」 洋泉社、2006
小関智弘「おんなたちの町工場」ちくま文庫、2001
エイレン・モーガン「女の由来」どうぶつ社、1997
シンシア・S・スミス「女は結婚すべきではない」中公文庫、2000
シェア・ハイト「女はなぜ出世できないか」東洋経済新報社、2001
中村うさぎ「女という病」新潮社、2005
内田 樹「女は何を欲望するか?」角川ONEテーマ21新書 2008
三砂ちづる「オニババ化する女たち」光文社、2004
大塚英志「「彼女たち」の連合赤軍」角川文庫、2001
鹿野政直「現代日本女性史」有斐閣、2004
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
ジャネット・エンジェル「コールガール」筑摩書房、2006
ダナ・ハラウエイ「サイボーグ・フェミニズム」水声社 2001
山崎朋子「サンダカン八番娼館」筑摩書房、1972
水田珠枝「女性解放思想史」筑摩書房、1979
フラン・P・ホスケン「女子割礼」明石書店、1993
細井和喜蔵「女工哀史」岩波文庫、1980
サラ・ブラッファー・フルディ「女性は進化しなかったか」思索社、1982
赤松良子「新版 女性の権利」岩波書店、2005
マリリン・ウォーリング「新フェミニスト経済学」東洋経済新報社、1994
ジョーン・W・スコット「ジェンダーと歴史学」平凡社、1992
清水ちなみ&OL委員会編「史上最低 元カレ コンテスト」幻冬舎文庫、2002
モリー・マーティン「素敵なヘルメット」現代書館、1992
R・J・スミス、E・R・ウイスウェル「須恵村の女たち」お茶の水書房、1987
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
鹿嶋敬「男女摩擦」岩波書店、2000
荻野美穂「中絶論争とアメリカ社会」岩波書店、2001
山口みずか「独身女性の性交哲学」二見書房、2007
田嶋雅巳「炭坑美人」築地書館、2000
ヘンリク・イプセン「人形の家」角川文庫、1952
スーザン・ファルーディー「バックラッシュ」新潮社、1994
井上章一「美人論」朝日文芸文庫、1995
ウルフ・ナオミ「美の陰謀」TBSブリタニカ、1994
杉本鉞子「武士の娘」ちくま文庫、1994
ジョンソン桜井もよ「ミリタリー・ワイフの生活」中公新書ラクレ、2009
佐藤昭子「私の田中角栄日記」新潮社、1994
斉藤美奈子「モダンガール論」文春文庫、2003
光畑由佳「働くママが日本を救う!」マイコミ新書、2009
エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」草思社、1997
奥地圭子「学校は必要か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980
伊藤雅子「子どもからの自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975
ジェシ・グリーン「男だけの育児」飛鳥新社、2001
末包房子「専業主婦が消える」同友館、1994
熊沢誠「女性労働と企業社会」岩波新書、2000
ミレイユ・ラジェ「出産の社会史 まだ病院がなかったころ」勁草書房、1994

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