匠雅音の家族についてのブックレビュー    20世紀 革命|読売新聞20世紀取材班

20世紀 革命 お奨度:

著者:読売新聞20世紀取材班、  中公文庫  2001年   ¥648−

著者の略歴−
 政治的な変革は昔からあった。
しかし、その評価は必ずしも高いものではなかった。
変革=革命はむしろ、一種のクーデターのようにすら見られていた。
それが近代に入る時、主権が国民に獲得された。
いや主権が庶民に移るのを、革命と呼んだのである。
それまでは、支配権が支配階級のなかでだけ、あちこちへと移動したにすぎなかった。
支配階級に属さない普通の人間が、支配するようになったのだから、
それを革命と言わずして何と言おう。
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 虐殺に血塗られたのが革命だとしても、
革命は近代の生みの親であり、近代は革命によって始まった。
だから近代にあっては、革命はロマンチックで正義感に満ちた響きをもっていた。
近代を肯定すれば、革命も肯定しないわけにはいかなかった。
しかし、イギリスのように旧体制が残った国では、革命を冷ややかに見る目が厳然としてあった。
革命は下克上であり秩序の破壊だから、保守的な人たちにはとても許容できなかったのである。

 最初に産業革命に成功したイギリスでは、他の国をさしおいて国力が富み始めた。
遅れたドイツは貧しく、国内が不安定だった。
そうしたなか、ドイツに革命の萌芽が芽ばえていた。
しかし、まず革命が勃発したのは、ロシアだった。
1917年の2月革命につづき、10月にボルシェビッキによる政権奪取があり、
それが世界で最初の共産主義革命となった。
70年後の1987年に崩壊するまで、超大国として世界に君臨した。

 ボルシェビッキ革命の後、ソ連が工業生産を向上させた時代、
わが国ではこぞってソ連の賛美が続いた。
革新的といわれる人たちは、ソ連について語り、モスクワ詣でをし、そしてアメリカを攻撃した。
ソ連が崩壊すると、今度は保守的な人が、ソ連をそして革命を語るようになった。
本書もその流れのうえにあり、
中央公論社が読売新聞に買収されたので、保守的な読売色が浸透してきたのであろう。
革命を冷ややかに否定的に見ている。

 10月革命を共産政権による「自国民に対する戦争」の始まりと決めつけたその内容(テレビ放映されたドキュメントのこと)は、当時進められていたスターリン粛清の問い直しと並んで、国民に衝撃を与え、その歴史意識を大きく変えるきっかけとなった。
 「自分を含め、大抵の大学生は、10月革命をロシアの悲劇と考えている。革命の後に来たのは、内戦など暗黒の時代だったと教えられた」と、モスクワ大学三年生、スベトラーナ・ルイバコワは言う。かつて「人類史の新しい黎明」と称されたロシア革命は、「ロシアの正常な発展を妨げた歴史的惨事」 へと、180度評価を変えたのだ。P11


 アメリカが帝国主義といわれて、嫌われるばかりであるの比して、
人類の新たな歴史を切り開くと、ソ連は多くの人が絶賛した国家である。
収容所列島が刊行されても、ソ連賛美はなかなか下火にならなかった。
戦争に負けたのならいざ知らず、
通常の営みのなかで国家が崩壊したのは、ほんとうに珍しいことに違いない。
これほど正反対に評価のくつがえった歴史も珍しいだろう。

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 ソ連の批判には枷がきかない。
すべてが否定的に論じられる。
とりわけ粛清をともなったので、革命そのものすら否定されかねない。
建国の父といわれたレーニンの評価も、今や地に落ちた。
そして、スターリンはもちろん批判の対象だが、それに続く人たちも、否定的な評価はまぬがれない。

 スターリン後のフルシチョフ時代、そして次のプレジネフ時代を経て、この「抑圧」権力の構図に幾分かの疑似的な改善はあったにしても、国家テロの体質は残った。しかし、ゴルバチョフ政権の改革路線下で「体制立て直し」(ペレストロイカ)が始まると、当然ながら、真っ先に独裁者に葬られてきた「歴史の暗部」に対する「見直し」が行われる。
 ブハーリン裁判はその筆頭に取り上げられた問題だった。88年2月にソ連最高裁が「告訴事実に根拠はない」として無罪を決定、6月には名誉回復、7月には党籍回復が正式に決定されている。当時、旧時代の欺瞞を暴く機運は激しく、この「歴史見直し」を通じて残存体制の屋台骨が次々と砕かれ始めた。P45


 ロシア人にとって、ソ連の崩壊は断腸の思いで見る歴史である。
ロシアで革命への再評価がなされるのは当然だが、わが国までその尻馬に乗るのは、無様である。

 もう一方の社会主義革命だった中国に関しては、
まだ体制が存在しているので、本書はきわめて歯切れが悪い。
ロシア革命をはっきり否定しているが、中国はどうなるかわからない。
いずれも現在進行中のものには、自分の思い入れで語るのである。

 中国はわが国の文化の故郷だから、
中国を悪く言うことは自分を攻撃することにつながりかねない。
とりわけ、保守的な人たちは、漢字文化や礼節といったものが大好きだから、
中国にある郷愁をもっている。
毛沢東の大躍進や文化大革命は失敗だったが、中国そのものは偉大だというわけである。
しかし、本当にそうだろうか。

 人の評価というのは、あてにならないものだ。
本書も、読売新聞の記者たちが大挙して書いているが、
このうちのどの文章が歴史の時間に耐えられるのだろうか。   (2002.7.5)
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参考:
石原寛爾「最終戦争論」中公文庫、2001
多川精一「戦争のグラフィズム」平凡社、2000
レマルク「西部戦線異常なし」レマルク、新潮文庫、1955
ジョージ・F・ケナン「アメリカ外交50年」岩波書店、2000
アミン・マアルーフ「アラブが見た十字軍」筑摩学芸文庫、2001
アンソニー・ギデンズ「国民国家と暴力」而立書房、1999
戸部良一ほか「失敗の本質:日本軍の組織論的研究」ダイヤモンド社、1984
田中宇「国際情勢の見えない動きが見える本」PHP文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
ウイリアム・ブルム「アメリカの国家犯罪白書」作品社、2003
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社、2001
多川精一「戦争のグラフィズム 「FRONT」を創った人々」平凡社、2000
秦郁彦「慰安婦と戦場の性」新潮選書、1999
佐藤文香「軍事組織とジェンダー」慶応義塾大学出版会株式会社、2004
別宮暖朗「軍事学入門」筑摩書房、2007
西川長大「国境の超え方」平凡社、2001
三宅勝久「自衛隊員が死んでいく」花伝社、2008
戸部良一他「失敗の本質」ダイヤモンド社、1984
ピータ・W・シンガー「戦争請負会社」NHK出版、2004
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社 2001
菊澤研宗「組織の不条理」ダイヤモンド社、2000
ガバン・マコーマック「属国」凱風社、2008
ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」岩波書店、2002
サビーネ・フリューシュトゥック「不安な兵士たち」原書房、2008
デニス・チョン「ベトナムの少女」文春文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
読売新聞20世紀取材班「20世紀 革命」中公文庫、2001
ジョン・W・ダワー「容赦なき戦争」平凡社、1987
杉山隆男「兵士に聞け」新潮文庫、1998
杉山隆男「自衛隊が危ない」小学館101新書、2009
伊藤桂一「兵隊たちの陸軍史」新潮文庫、1969

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