著者の略歴−1965年岡山県生まれ。ジャーナリスト。元山陽新聞記者。「債権回収屋”G”−野放しのヤミ金融」で第12回「遇刊金曜日」ルポルタージュ大賞優秀賞。「遇刊金曜日」連載の武富士批判記事をめぐり、同社から1億1000万円の損害賠償を求める口封じ訴訟を起こされるが最高裁で勝訴確定。武富士とオーナーの武井保雄氏を相手に起こした反撃訴訟でも全面勝訴を勝ち取る。著書に「ヤミ金・サラ金大爆発−亡国の高利貸」(花伝社)、「悩める自衛官−自殺者急増の内幕」(花伝社)、「武富士追求−言論弾圧裁判1000日の闘い」(リム出版新社) 年間100人を超える自殺・不明者がでているという。 そうだろうと思う。 ねじれた存在である自衛隊は、健全な組織になり得ない、と思っていた。 本書のような告発本は、弱小出版社からしか、上梓できない時代が来た。
米軍も、イラク戦争以降、軍人の自殺が問題になっているが、2006年で10万人あたり17.3人だという。 それにたいして、自衛隊は38.6人(2005年)である。 ちなみに、我が国の一般公務員の自殺は、10万人あたり17.1人である。 多くはイジメで死んでいくのだが、じつに悲惨である。 イジメ自体も悲惨だが、それ以上に問題なのは、自衛隊が自殺をきっちりと解明しないことだ。 組織を上げて、事件を隠蔽してしまう。 自殺した者にすべての責任をかぶせて、まわりは責任がなかったことにしてしまう。 この体質は、我が国の旧軍からの組織体質であろう。 自衛隊は防衛上の秘密ということで、閉ざされた組織になりやすい。 しかし、自衛隊員の人権を守ることと、国防上の秘密は関係がない。 内部がうかがい知れない組織は、必ず腐敗する。 自衛隊員の人権を守らずして、国防ができるわけはない。 このままいけば、自衛隊は内部から腐敗していくだろう。 指導というイジメが蔓延しているだろう。その構造はよく判る。
上官 いじめたのか? 先輩 いいえ、指導ですよ。僕は彼のことを思ってやってます。 たぶんこんな感じで調査は終わり。入ってきたばかりの新兵と、長年経験をつんだ隊員と、どっちが信用されるかは明らかですよ。公平な調査ができる第三者機関なんてありませんから。で、倍返し。仕返しが怖いから、いじめられている人は言えないんです。P104 セクハラはもっと悲惨である。 男性隊員が大多数の部隊に、女性が配属になる。 そこでセクハラをおこした男性がいても、隊全体で男性をかばってしまう。 酒を飲む、賭け事をやる、こうしたことが禁止されていくと、男性隊員たちは困るのだ。 海上自衛隊では、国外の艦内では禁酒のはずだが、酒が持ちこまれているのは公然の秘密のようだ。 自衛隊内でのセクハラ事情はどうなのか。 防衛庁は1998年、女性隊員1000人、男性隊員1000人を対象に初のアンケート調査を行った(回収率98%)。その結果に驚いたのは同庁自身だったに違いない。 女性隊員のうち18.7%が「性的関係の強要」を受けたと回答した。凶悪犯罪である「強姦・暴行(未遂)」は7.4%にのぼった。女性自衛官の数は1万人あまりで、単純計算すると、自衛隊全体では700人以上が「強姦・暴行(未遂)」事件の被害を受けた計算になる。 またアンケート結果では、「わざとさわる」被害に遭った女性が半数を超える59.8%。「後をつける・私生活の侵害」というストーカー行為に近い内容の被害が18.2%という。 被害者は女性だけではない。男性隊員の1.4%が「性的関係の強要」を受けたと答えている。「強姦・暴行(未遂)」被害に遭った男性隊員も0.7%いたという。加害者ははとんど、男性の上司や同僚だ。P158 2008年4月現在で、自衛官の自殺に関する国家賠償訴訟は、3件おこされている。 自衛官の遺族が、自衛隊の対応に不信を抱いて、訴訟に踏み切ったのだ。 今までは、泣き寝入りしていたのだろう。 自衛隊がカンボジアに派遣されたとき、交通事故で現地の人を3人も殺している。 我が国なら大問題になるだろう。 しかし、目が届かないところでは、何をしても許されてしまう。 自衛隊は、内部から崩壊していくのではないだろうか。 (2009.1.3)
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