匠雅音の家族についてのブックレビュー    自衛隊員が死んでいく|三宅勝久

自衛隊員が死んでいく お奨度:

著者:三宅勝久(みやけ かつひさ)  2008年 花伝社 ¥1500−

 著者の略歴−1965年岡山県生まれ。ジャーナリスト。元山陽新聞記者。「債権回収屋”G”−野放しのヤミ金融」で第12回「遇刊金曜日」ルポルタージュ大賞優秀賞。「遇刊金曜日」連載の武富士批判記事をめぐり、同社から1億1000万円の損害賠償を求める口封じ訴訟を起こされるが最高裁で勝訴確定。武富士とオーナーの武井保雄氏を相手に起こした反撃訴訟でも全面勝訴を勝ち取る。著書に「ヤミ金・サラ金大爆発−亡国の高利貸」(花伝社)、「悩める自衛官−自殺者急増の内幕」(花伝社)、「武富士追求−言論弾圧裁判1000日の闘い」(リム出版新社)

 年間100人を超える自殺・不明者がでているという。
そうだろうと思う。
ねじれた存在である自衛隊は、健全な組織になり得ない、と思っていた。
本書のような告発本は、弱小出版社からしか、上梓できない時代が来た。

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 軍隊というところは、自殺者がでやすいところだ。
米軍も、イラク戦争以降、軍人の自殺が問題になっているが、2006年で10万人あたり17.3人だという。
それにたいして、自衛隊は38.6人(2005年)である。
ちなみに、我が国の一般公務員の自殺は、10万人あたり17.1人である。

 多くはイジメで死んでいくのだが、じつに悲惨である。
イジメ自体も悲惨だが、それ以上に問題なのは、自衛隊が自殺をきっちりと解明しないことだ。
組織を上げて、事件を隠蔽してしまう。
自殺した者にすべての責任をかぶせて、まわりは責任がなかったことにしてしまう。
この体質は、我が国の旧軍からの組織体質であろう。

 自衛隊は防衛上の秘密ということで、閉ざされた組織になりやすい。
しかし、自衛隊員の人権を守ることと、国防上の秘密は関係がない。
内部がうかがい知れない組織は、必ず腐敗する。
自衛隊員の人権を守らずして、国防ができるわけはない。
このままいけば、自衛隊は内部から腐敗していくだろう。

 指導というイジメが蔓延しているだろう。その構造はよく判る。

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 (自殺した者は)誰にも相談できない。言ったら倍返し。もし報告すれば、調査が入るでしょ。相手の先輩は、事情を聴かれる。ただじゃ済まない。
 上官 いじめたのか?
 先輩 いいえ、指導ですよ。僕は彼のことを思ってやってます。
たぶんこんな感じで調査は終わり。入ってきたばかりの新兵と、長年経験をつんだ隊員と、どっちが信用されるかは明らかですよ。公平な調査ができる第三者機関なんてありませんから。で、倍返し。仕返しが怖いから、いじめられている人は言えないんです。P104


 セクハラはもっと悲惨である。
男性隊員が大多数の部隊に、女性が配属になる。
そこでセクハラをおこした男性がいても、隊全体で男性をかばってしまう。
酒を飲む、賭け事をやる、こうしたことが禁止されていくと、男性隊員たちは困るのだ。
海上自衛隊では、国外の艦内では禁酒のはずだが、酒が持ちこまれているのは公然の秘密のようだ。

 自衛隊内でのセクハラ事情はどうなのか。

 防衛庁は1998年、女性隊員1000人、男性隊員1000人を対象に初のアンケート調査を行った(回収率98%)。その結果に驚いたのは同庁自身だったに違いない。
 女性隊員のうち18.7%が「性的関係の強要」を受けたと回答した。凶悪犯罪である「強姦・暴行(未遂)」は7.4%にのぼった。女性自衛官の数は1万人あまりで、単純計算すると、自衛隊全体では700人以上が「強姦・暴行(未遂)」事件の被害を受けた計算になる。
 またアンケート結果では、「わざとさわる」被害に遭った女性が半数を超える59.8%。「後をつける・私生活の侵害」というストーカー行為に近い内容の被害が18.2%という。
 被害者は女性だけではない。男性隊員の1.4%が「性的関係の強要」を受けたと答えている。「強姦・暴行(未遂)」被害に遭った男性隊員も0.7%いたという。加害者ははとんど、男性の上司や同僚だ。P158


 2008年4月現在で、自衛官の自殺に関する国家賠償訴訟は、3件おこされている。
自衛官の遺族が、自衛隊の対応に不信を抱いて、訴訟に踏み切ったのだ。
今までは、泣き寝入りしていたのだろう。

 自衛隊がカンボジアに派遣されたとき、交通事故で現地の人を3人も殺している。
我が国なら大問題になるだろう。
しかし、目が届かないところでは、何をしても許されてしまう。
自衛隊は、内部から崩壊していくのではないだろうか。   (2009.1.3)
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参考:
石原寛爾「最終戦争論」中公文庫、2001
多川精一「戦争のグラフィズム」平凡社、2000
レマルク「西部戦線異常なし」レマルク、新潮文庫、1955
ジョージ・F・ケナン「アメリカ外交50年」岩波書店、2000
アミン・マアルーフ「アラブが見た十字軍」筑摩学芸文庫、2001
アンソニー・ギデンズ「国民国家と暴力」而立書房、1999
戸部良一ほか「失敗の本質:日本軍の組織論的研究」ダイヤモンド社、1984
田中宇「国際情勢の見えない動きが見える本」PHP文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
ウイリアム・ブルム「アメリカの国家犯罪白書」作品社、2003
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社、2001
多川精一「戦争のグラフィズム 「FRONT」を創った人々」平凡社、2000
秦郁彦「慰安婦と戦場の性」新潮選書、1999
佐藤文香「軍事組織とジェンダー」慶応義塾大学出版会株式会社、2004
別宮暖朗「軍事学入門」筑摩書房、2007
西川長大「国境の超え方」平凡社、2001
三宅勝久「自衛隊員が死んでいく」花伝社、2008
戸部良一他「失敗の本質」ダイヤモンド社、1984
ピータ・W・シンガー「戦争請負会社」NHK出版、2004
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社 2001
菊澤研宗「組織の不条理」ダイヤモンド社、2000
ガバン・マコーマック「属国」凱風社、2008
ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」岩波書店、2002
サビーネ・フリューシュトゥック「不安な兵士たち」原書房、2008
デニス・チョン「ベトナムの少女」文春文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
読売新聞20世紀取材班「20世紀 革命」中公文庫、2001
ジョン・W・ダワー「容赦なき戦争」平凡社、1987
杉山隆男「兵士に聞け」新潮文庫、1998
杉山隆男「自衛隊が危ない」小学館101新書、2009
伊藤桂一「兵隊たちの陸軍史」新潮文庫、1969
田中美津「いのちの女たちへ」現代書館、2001年
ジェリー・オーツカ「天皇が神だったころ」アーティストハウス、2002
原武史「大正天皇」朝日新聞社、2000
大竹秀一「天皇の学校」ちくま文庫、2009
ハーバート・ビックス「昭和天皇」講談社学術文庫、2005
片野真佐子「皇后の近代」講談社、2003
浅見雅男「皇族誕生」角川書店、2008
河原敏明「昭和の皇室をゆるがせた女性たち」講談社、2004
加納実紀代「天皇制とジェンダー」インパクト出版、2002
繁田信一「殴り合う貴族たち」角川文庫、2005
ベン・ヒルズ「プリンセス マサコ」第三書館、2007
小田部雄次「ミカドと女官」恒文社、2001
ケネス・ルオフ「国民の天皇」岩波現代文庫、2009

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