匠雅音の家族についてのブックレビュー    アメリカの国家犯罪白書|ウイリアム・ブルム

アメリカの国家犯罪白書 お奨度:

編著者: ウイリアム・ブルム   作品社、2003年   ¥2、000−

 著者の略歴−1933年、ニューヨーク生まれ。米国国務省の外交担当部門に従事していたが、67年ベトナム戦争に反対して辞任。辞仕後、ワシントン初の「地下」新聞「ワシントン・フリープレス」を創刊するが、FBIの妨害で廃刊。67年、槌密のべールに包まれていたCIAの内部を暴く告発書を刊行。200名以上のCIA職員の名を公開して波紋を呼ぶ。72〜3年にはチリに滞在し、アジェンデ政権の成立とCIAが計画した軍事クーデターによる崩壊を、現地からリポートしつづけ世界に真実を訴えた。80年代後半には、映画監督オリバー・ストーンとともに、米国外交の真実についてのドキュメンタリー映画の製作に乗りだす。現在は再びワシントンに居住し、記事の執筆活動を行っている。

 アメリカ合衆国は、正当な根拠なしにイラクを攻撃し、独立国家の政府を崩壊させた。
論理を無視して、腕力にまかせて他人を暴行するのは、まさに、ならず者のやることである。
しかし、アメリカが戦争以外で、他国を侵略したのこれだけではない。
ちょっと思い出しただけでも、ベトナムをはじめ、グレナダ、パナマ、ニカラグア、ソマリアと、たちまち5本の指が折れる。
しかも、これは氷山の一角である。
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アメリカの国家犯罪全書

 本書は、アメリカが国家として、他国に介入した事件を、詳細に論じたものである。
戦後になってアメリカが介入した国名を、詳細な調査に基づいて、あげている。

 中国1945〜51年、フランス1947年、マーシャル諸島1946〜58年、イタリア1947〜70年代、ギリシャ1947〜49年、フィリピン1945〜1953年、朝鮮1945〜53年、アルバニア1949〜53年、東欧1948〜56年、ドイツ1950年代、イラン1953年、グアテマラ1953〜90年代、コスタリカ1950年代半ば&1970〜71年、中東1956〜58年、インドネシア1957〜58年、ハイチ1959年、西ヨーロッパ1950〜60年代、英領ギアナ/ガイアナ1953〜64年、イラク1958〜63年、ソ連1940〜60年代、ベトナム1945〜73年、カンボジア1955〜73年、ラオス1957〜73年、タイ1965〜73年、エクアドル1960〜63年、コンゴ/ザイール1960〜65年、フランス:アルジェリア1960年代、ブラジル1961〜64年、ペルー1965年、ドミニカ共和国1963〜65年、キューバ1959〜現在、インドネシア1965年、ガーナ1966年、ウルグアイ1969〜72年、チリ1964〜73年、ギリシャ1967〜74年、南アフリカ1960〜80年代、ポリビア1964〜75年、オーストラリア1972〜75年、イラク1972〜75年、ポルトガル1974〜76年、東チモール1975〜99年、アンゴラ1975〜80年代、ジャマイカ1976年、ホンジュラス1980年代、ニカラグア1978〜90年、フィリピン1970〜90年代、セイシェル1979〜81年、南イエメン1979〜84年、韓国1980年、チャド1981〜82年、グレナダ1979〜83年、スリナム1982〜84年、リビア1981〜89年、フィジー1987年、パナマ1989年、アフガニスタン1979〜92年、エルサルバドル1980〜92年、ハイチ1987〜94年、ブルガリア1990〜91年、アルバニア1991〜92年、ソマリア1993年、イラク1990年代、ペルー1990年代〜現在、メキシコ1990年代〜現在、コロンビア1990年代〜現在、ユーゴスラビア1995〜99年

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 膨大に見えるが、このリストは代表的なものだけであている。
選挙妨害などは、また別のリストに掲載されている。
我が国の自由民主党を勝たせるために、CIAから資金が出ていたという話が暴露されたことがあった。
本書にも小さな事件として掲載されている。

 日本 1958〜70年代−−CIAは、国会選挙で自民党を「一議席一議席」支援するために、何百万ドルもの予算を費やし、日本社会党を弱体化させるために策動した。その結果、自民党は38年にわたり権力の座を維持した。これは、やはりCIAがスポンサーとなったイタリアのキリスト教民主党政権に比するものである。こうした策略により、日本とイタリアでは強固な複数政党が発達しなかった。P279

 アメリカのみならず強大になった国家は、諸外国に対して暴力をふるう。
大英帝国のインドや中国で行った蛮行は有名である。
ソ連も近隣諸国を侵略した歴史をもっている。
アメリカは自由の国である。
自由の国が外国を侵略して良いのか、そう言いたくなる。
しかし、自由の国というのは、アメリカがもつ支配のイデオロギーであって、いわば建前である。
どんな国家も、国家と名のつく以上、必ず自己の利益のために動くものである。

 アメリカの暴力に問題があるのは、それに一貫性がないことだ。
ある時は反体制派を擁護したと思ったら、大統領が替わると体制派擁護に変節する。
結果として援助した武器が両方に渡り、血なまぐさい抗争を加速させることになる。
これはアメリカの民主主義が、不可避的にはらんでいる矛盾であろう。

 そうした意味では、本書のあとがきが言うように、アメリカの外交政策の基本は、政権次第で代わるものではなく、構造的な問題であろう。
あとがきで、サム・スミスの言葉が引用されている。

 歴史のなかで、われわわは無力であると考える人々は、1830年代の奴隷廃止論者、1870年代のフェミニスト、1890年代の労働組合活動家、1910年代のゲイ・レズビアン作家のことを思い出すとよい。われわれ同様、こうした人々も、自分が生まれる時を選ぶことはできなかった。けれども、なすべきことを選びとったのだ。P410

 ブッシュ政権下で右傾化するアメリカ。
発言の自由が徐々に狭められている中で、孤高の発言を続けることは、大変な困難に遭遇しているのだろう。
そうした意味では、本書の筆者もまた、なすべきことを選びとったのだ。 
(2003.10.24)
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参考:
石原寛爾「最終戦争論」中公文庫、2001
多川精一「戦争のグラフィズム」平凡社、2000
レマルク「西部戦線異常なし」レマルク、新潮文庫、1955
ジョージ・F・ケナン「アメリカ外交50年」岩波書店、2000
アミン・マアルーフ「アラブが見た十字軍」筑摩学芸文庫、2001
アンソニー・ギデンズ「国民国家と暴力」而立書房、1999
戸部良一ほか「失敗の本質:日本軍の組織論的研究」ダイヤモンド社、1984
田中宇「国際情勢の見えない動きが見える本」PHP文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
ウイリアム・ブルム「アメリカの国家犯罪白書」作品社、2003
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社、2001
多川精一「戦争のグラフィズム 「FRONT」を創った人々」平凡社、2000
秦郁彦「慰安婦と戦場の性」新潮選書、1999
佐藤文香「軍事組織とジェンダー」慶応義塾大学出版会株式会社、2004
別宮暖朗「軍事学入門」筑摩書房、2007
西川長大「国境の超え方」平凡社、2001
三宅勝久「自衛隊員が死んでいく」花伝社、2008
戸部良一他「失敗の本質」ダイヤモンド社、1984
ピータ・W・シンガー「戦争請負会社」NHK出版、2004
佐々木陽子「総力戦と女性兵士」青弓社 2001
菊澤研宗「組織の不条理」ダイヤモンド社、2000
ガバン・マコーマック「属国」凱風社、2008
ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」岩波書店、2002
サビーネ・フリューシュトゥック「不安な兵士たち」原書房、2008
デニス・チョン「ベトナムの少女」文春文庫、2001
横田正平「私は玉砕しなかった」中公文庫、1999
読売新聞20世紀取材班「20世紀 革命」中公文庫、2001
ジョン・W・ダワー「容赦なき戦争」平凡社、1987
杉山隆男「兵士に聞け」新潮文庫、1998
杉山隆男「自衛隊が危ない」小学館101新書、2009
伊藤桂一「兵隊たちの陸軍史」新潮文庫、1969
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