匠雅音の家族についてのブックレビュー    日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識|アントラム柏木利美

日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識 お奨度:

著者:アントラム柏木利美(かやき としみ)
中公文庫、1998、1994  ¥571−

著者の略歴−1953年、東京都に生まれる。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、広告代理店に勤務。77年、ハリウッドへリポーターとして渡米。帰国後、雑誌・新開・テレビのライター、リポーターとして活躍。89年よりサン・フランシスコに住む。現在、アメリカの航空会社勤務のかたわら、日本のマスコミに最新のアメリカ情報を送り続けている。著書に「女にできない職業はない」「ハローおばあちゃん、おしえて」「ワーキソグミセスの24時」「国際空港『乗客』物語」などがある。
 アメリカ人と結婚した日本人女性が、アメリカと日本の愛にかんする違いを論じている。
筆者がいうには、愛の考え方や表し方が、アメリカと日本では逆さまなのだそうである。
まったく反対かどうかは議論の余地があるが、相当に違うことは事実だろう。
とりわけ筆者が強調するのは、
個人が自立を迫られている社会なので、否が応でも一人になってしまう。
他人の心の中に、ずかずかと踏み込んでいくことは、誰もしない。
しかも、最近では女性が自立し始めたので、男女間の精神的なつながりも、孤独を癒してはくれないという。
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 筆者の夫はアメリカ人だから、いうところの国際結婚である。
本人たちも含めて、国際結婚は難しいという。
結婚したとなると、たとえ本人たちが良くても、廻りとはあうとは限らない。
兄弟や周りの人とも、付き合わなければならない。
それで国際結婚は破綻になり安いというが、アメリカに住む筆者はそうは考えない。
なぜなら、カルフォルニアの離婚率は50%をこえており、アメリカ人同士でも半分以上が破綻するのだから、
離婚の原因を国際結婚に持っていくのは間違いだろう。
2人の性格の問題とみるべきだ。

 国際結婚でうまくいくケースというのはある。
それは次のようなカップルだという。

 「アメリカ人と日本人のカップルで長続きするためには、ちょっぴり気の強い日本人の奥さんと、日本に住んだことのある、やさしい理解力のあるアメリカ人の実の組み合わせがいい」と誰かが言っていた。
 反対に、日本的なおとなしい女性は、遅かれ早かれ、夫にあきられ、実は、はっきり自分の考えを言うキャリアウーマンの女性と一緒になるケースが多いという。P48

 上記の筆者の言葉は、けだし名言だと思う。
自立した人間の社会では、自分の意見を持たない人間は、長い間には飽きられる。
今後はわが国でも、人形のような女性は減っていくだろう。

 一般には、日本人の男性とアメリカ人の女性という組合せより、
日本人女性とアメリカ人男性という組合せが多いだろう。
それは主導する男性対従う女性という構造が、先進国対途上国の構造に対応するからだ。

 ここ3年で、カリフォルニアで白人男性がアジア人女性を選ぶ比率はグーンと増えて、10%増になっている。
その理由のひとつに、白人男性が白人女性ではない他の人種に目を向けはじめたことがある。(中略)白人女性では得られない、女性へのファンタジーをアジア人女性の中に求めはじめるようになったのだという。従来、女性が持っていると言われる女らしさ、思いやり、自分はいつも一歩後ろに控えて男性を立てるという古典的な女らしさ、夫や子供第一のよき家庭人、献身的に子育てをするなど、今を生きるアメリカの女性には少なくなってきたものが、アジアの女性にはあるのではないかという、男の憧れと関係があるらしい。P54


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 前記の話と矛盾するようだが、それもそうだろうと思う。
新たな人生を切り開くのだから、女性は積極的になる。
男性は自分から進んで選び取った時代風潮ではない。
自分を変えねばならない男性は、自分の好みを変えてまで、女性の相手をしようとは思わないだろう。
そこでおとなしいアメリカ人男性は、素直に見えるアジアの女性を好むことになる。
しかし、アジアの女性を好む男性は、アメリカでの競争からおりた人が多いようにも感じる。

 前述のアジア人女性の態度は、せっかく獲得したアメリカ人女性の地位を裏切っていることになる。
事実、裕福な日本人女性が、アメリカ人男性と迎合的に結婚するのを、フェミニズムに対する裏切りという声がある。
40歳の声を聞いたアメリカ人女性は、もうほとんど結婚の可能性はないようだ。
彼女らの結婚可能性は、飛行機事故より低いという。
これまた肯首できる現象である。
本書の圧巻は、第4章の「変貌するファミリー像」だろう。
増えているのは、シングル・マザーではない。
シングル・ファーザーが増えている。
そして同性愛者たちが、子供を持ち始めている、という。

 1980年の国勢調査によれば、シングル・ファーザーは69万人。1992年には、147万2千人。その数は二倍以上だ。これを、全体で見てみると、14%にもなっている。
 ひと昔前までは、父子家庭というのは、妻に先立たれたか、離婚後に父親が十代の男の子を引き取るという特殊なケースだけだった。離婚後の子供の大半は母親が引き取った。
 1990年代になると、このバターンは完全に崩れた。今や、特殊な場合ではなく、離婚後、かつて母親が子供を世話していたように、父親も世話をしている。いわゆる共同親権が普及した。P84


 当然の現象であろう。
女性の自立は、家庭内から女性を社会へと羽ばたかせたが、子供は家庭に残された。
映画「クレーマー、クレーマー」が、現実になりつつある。
女性の結婚難といい、男性の子育てといい、
アメリカの後を追おうわが国は、遠からず同じようになるだろう。

 男女が性によって役割を分担しなくなった時代である。
男女はいわばパートナーといったらいいのだろうか。
本書でも触れられているが、パートナー時代に男女が求めるのは、
物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさだ。
人間として、思いやりや温かさといったものを、互いに持ち会える。
そして、互いに良きライバルとして、生活を共にする。
そんな人間関係が今後の男女だろう。

 本書はアメリカとの違いを記述しながら、家族とは愛情とは何かを考えている。
現時点での違いは、国民性の違いともとれる。
しかし、彼我の違いは固定されたものではなく、時間とともに変化する。
つまり近代化や情報社会化の早さの違いの反映である。
だから情報社会すれば、いずれわが国も同じようになっていくだろう。
本書を読む限り、核家族は確実に崩壊し、単家族へと移行していることが良くわかる。
読みやすく、厳しくも楽しい本だった。
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参考:
湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時事通信社、1998
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997
黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、1970
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990
斎藤学「家族の闇をさぐる」小学館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997
島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、2004
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998
ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993
森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997
林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998
斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009

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