著者の略歴− 1965年北海道紋別市生まれ。国学院大学文学部卒業。業界紙、北海道新聞の記者生活を経て、2003年にフリージャーナリストとなる。記者時代に培った徹底的な現場取材力で、教育と地域問題の観点から、世代に関わる社会現象に深く切り込むことをライフワークとしている。主に『AERA』などのメジャー誌や論壇誌などで活躍中。書き下ろしの本格的ルポルタージュとしては、本書が初の著書になる。メールアドレス mrkick@nifty.com 結婚が減ってきた原因は、時代背景のみならず、 産業構造等とも密接に絡み、個人の意識の次元で解消できる問題ではない。 にもかかわらず、筆者は個人の意識のみを、分析の対象にしている。 非婚・晩婚時代の家族論とサブタイトルを付けた本書は、 結婚することが善、核家族を維持することが善という前提で、論が展開されているように読める。
ある社会現象が発生したときに、まず問題とされなければならないのは、その社会現象を発生させた社会の構造分析である。 非婚や晩婚化が進んできたのは、結婚の必要性が社会的に薄れたからである。 それでも結婚したいと望む若者が多いのは、意識の変化は社会の変化に遅れるからだ。 社会の構造分析を捨象したまま、結婚を普遍的なものと見なし、結婚への意識を喚起しようとする筆者の論には、大いに疑問がある。 人々の意識に変化があって、社会変化が起きるのではない。 社会変化があった後、それに適応しようとして、意識が変わっていくのである。 だから、非婚・晩婚化がすすむなかで、結婚願望が残っても、それは意識の遅延現象に過ぎず、不思議気でも何でもない。 社会に変化が起きたとき、遅延した意識を追って分析することは、来る社会の姿を描くことにはならない。 個人の意識を分析の対象にして、それ以上に論が進まないないとき、 その分析は個人を責めることに変わってしまう。 個人の生き方は、時代が要求するものに適応している結果であって、意識はその反映に過ぎない。 意識変革で状況が変わるものなら、全員が宗教の信者になればいいし、 戦前の天皇教やナチスのように、意識変革を訴えれば良い。 本書は、結婚に対する様々な視点を登場させているので、 賛否両論に公平に目配せをしていると勘違いさせる。 しかし、筆者の立場は、結婚こそ維持されるべき制度と考えている。 結婚しない世の中になったのは、「親の世代が失敗した」からだという。 その上、非婚は不幸であり、非婚者の老後は孤独だと、考えているようだ。 第1章 焦りを感じた親たちが動き出した 第2章 「結婚難民」世代を抱える親たちの本音 第3章 晩婚化する都会の男女事情 第4章 「非婚」から「避婚」へ−30代未婚者たちの素顔 第5章 女が強くなったのは本当か 第6章 非婚・晩婚をとりまく社会情勢 第7章 若者を結婚難民化させない方策はあるのか という目次から伺えるのは、少子化対策に便乗して、国民皆結婚を復活させようという願望に見える。 歴史的にみると、結婚は全員がすべきものでもなかったし、するものでもなかった。 国民皆結婚のような様相を呈したのは、高度経済成長が華やかだった時期の、一過的な現象に過ぎない。
長男以外が結婚するようになったのは、工業社会が会社員を生み出してからだ。 工業社会になると、工場という職場が女性を吸収できなかったので、 1対の男女が終生にわたって同居する核家族が成立した。 つまり国民皆結婚とは工業社会の制度である。 工業社会から情報社会になれば、工業社会の男女関係は当然に変質する。 情報社会では職場が女性を吸収するので、新たな男女関係が成立し、 国民皆結婚でなくなるのは、自然の成り行きである。 ジャーナリストの仕事となし得るのは、情報社会にどう適応していくか、 国民皆結婚ではなくても男女は幸せに暮らせる、といった時代の先を見据えた視点の提示であろう。 にもかかわらず、過ぎ去った時代の価値観に拘泥し、 古き良き時代を懐古する姿勢は、むしろ読者を不幸に陥れる。 復古を訴える姿勢は、読者の中に体験があるだけに、共感を呼びやすい。 とりわけ、高齢者は復古を好みたがる。 しかし、1対の男女が、終生にわたって同居する核家族という結婚制度は、すでに時代への適応性を失っている。 だから非婚・晩婚が進行しているのだ。 大家族、核家族の次の「子連れの離婚経験者」「片親」「里親」「養子」「外国人」、それに「単身者」「同性愛者」なども含めた、家族の新しいモデルを見出せていない。見通しすら立っていない状態である。P261 と言いきってしまうのは、筆者の不勉強を物語る。 大家族、核家族のつぎの家族の新しいモデルは、すでに「核家族から単家族へ」として提示している。 徐々にではあるが、単家族は認知され始めている。 ジャーナリストを名乗るのなら、旧を懐古するのではなく、 新たな時代への生き方を提示して欲しい。 (2005.08.01)
参考: G・エスピン=アンデルセン「福祉国家の可能性」桜井書店、2001 G・エスピン=アンデルセン「ポスト工業経済の社会的基礎」桜井書店、2000 湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005 越智道雄「孤立化する家族」時事通信社、1998 高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年 岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972 大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002 J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997 磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958 エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987 S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003 賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003 信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001 匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997 黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997 E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、1970 エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987 ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001 S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001 石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002 マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003 上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990 斎藤学「家族の闇をさぐる」小学館、2001 斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997 島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、2004 伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004 山田昌弘「家族のリストラクチュアリング」新曜社、1999 斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006 宮内美沙子「看護婦は家族の代わりになれない」角川文庫、2000 ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983 瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006 香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005 山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006 速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003 ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004 川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004 信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001 菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005 原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003 A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998 ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003 塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002 サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001 棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999 岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007 下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993 高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992 加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004 バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001 中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005 佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984 松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993 森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997 林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997 伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998 斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009 高倉正樹「赤ちゃんの値段」講談社、2006 デスモンド・モリス「赤ん坊はなぜかわいい?」河出書房新社、1995 ジュディス・リッチ・ハリス「子育ての大誤解」早川書房、2000 フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980 伊藤雅子「子どもからの自立 おとなの女が学ぶということ」未来社、1975 エリオット・レイトン「親を殺した子供たち」草思社、1997 ウルズラ・ヌーバー「<傷つきやすい子ども>という神話」岩波書店、1997 編・吉廣紀代子「女が子どもを産みたがらない理由」晩成書房、1991 塩倉裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002 ピーター・リーライト「子どもを喰う世界」晶文社、1995 ニール・ポストマン「子どもはもういない」新樹社、2001、 杉山幸丸「子殺しの行動学:霊長類社会の維持機構をさぐる」北斗出版、1980 矢野智司「子どもという思想」玉川大学出版部、1995 瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972年 赤川学「子どもが減って何が悪い」ちくま新書、2004 浜田寿美男「子どものリアリティ 学校のバーチャリティ」岩波書店、2005 本田和子「子どもが忌避される時代」新曜社、2008 鮎川潤「少年犯罪」平凡社新書、2001 小田晋「少年と犯罪」青土社、2002 リチヤード・B・ガートナー「少年への性的虐待」作品社、2005 広岡知彦と「憩いの家」「静かなたたかい」朝日新聞社、1997 高山文彦「地獄の季節」新潮文庫、2001 マイケル・ルイス「ネクスト」潟Aスペクト、2002 服部雄一「ひきこもりと家族トラウマ」NHK出版、2005 塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002 瀬川清子「若者と娘をめぐる民俗」未来社、1972 ロイス・R・メリーナ「子どもを迎える人の本」どうぶつ社、2005 奥地圭子「学校は必要か:子供の育つ場を求めて」日本放送協会、1992
|