匠雅音の家族についてのブックレビュー    レポート国際結婚−笑いと涙のグリーンカード取得|バターソン林屋晶子

レポート国際結婚 
 笑いと涙のグリーンカード取得
お奨度:

著者:バターソン林屋晶子(ばたーそん はやしや あきこ)
光文社文庫  2001年  ¥552−

著者の略歴−1970年金沢市生まれ。25歳で渡米、現在米国自動車関連企業に勤務している会社員。デトロイト近郊都市在住。自分がさんざん苦労した経験を元に、1999年1月に、「ぱたのうち」というアメリカ人との国際結婚の手続き(ピザや永住権など)についてのウェブサイトを開設し、現在も運営中。http://www.patanouchi.com/
 本書は、アメリカ人のオットと日本人の妻の物語である。
アメリカに留学した筆者は、26歳のときにオットと恋に落ちる。
不思議なことに筆者は、恋人のことを結婚前からオットと呼んでおり、
固有名詞をまったく書いていない。
本書は2人の関係を詮索するのが目的ではないから、
日本人女性の白人迎合性や主体性のなさを云々するつもりはない。
アメリカ滞在の法的根拠を求めて、2人は東奔西走する。
グリーンカードを入手する、それは壮絶なものだ。
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 オフィス(移民局のこと)の入口どころか、門の外まで長蛇の列。一瞬だれか有名人のコンサートのチケット取りかと思ってしまいました。そして、「あ、ここが列の最後?」と気が付いた場所から後ろを振り返ると、オフィスの門は遥か向こうで見えもしない。唖然としました。「電話がつながらない結果」を目の当たりにしたってものです。(中略)
 しかし、だんだんお日さまの感じが夕方の光線になってきた頃、「はい今日はここまで」と、15人くらい前でいきなりドアを閉められたときは、驚きました。「え−! こんなに待ったのに−!」と腹を立てているところをアピールしてみましたが、門を閉めたおじちゃんは、全くの無表情で、「明日の朝また来なさい」と一言。取り付く島もなし。
 日本にも″役所仕事″っていう言い方があって、決してサービスがいいというイメージはないけど、ここまでのところはないよ、とオットに愚痴りました。アメリカのサービス一般があまり迅速ではないということを理解しているはずのオットでさえ、移民局での初体験はこたえ模様。2人ともぐったりと駐車場に戻る羽目になりました。P50


 パスポートは出る国から発行されるものだが、ヴィザは受け入れる国から発行される。
そのヴィザをとるのは、思いのほか大変である。

 若い女性は、相手国の男性と結婚してしまう恐れがあるので、
アメリカに限らず、なかなかヴィザがでないことが多い。
わが国では、外国人を受け入れることは良いことのように思われているが、
外国人の入国は日本人の職業を奪うことでもある。
税金を払っていない外国人の滞在は、断りたいのがどこの国でも本音である。
ただし、観光客はお金を落としてくれるので、どこでも大歓迎する。

 筆者は学生ヴィザで滞在していたが、
一度我が国に帰国したとき、婚約者がアメリカにいると言ったことから、
ヴィザが下りなくなってしまった。
これは当然である。学生ヴィザは学生のためにあるもので、
婚約のためにあるのではない。
そこで婚約者ヴィザをとって、アメリカに渡ることにするが、
婚約者ヴィザをとるのはとても大変である。
アメリカ人のオットが、婚約者ヴィザの請願書をアメリカの移民局へ提出することから始まる。
 
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 書類(=請願書)を提出してから2カ月ほど経ち、ようやくアメリカ大使館のほうから、
「あなたの婚約者が出した婚約者ビザの請願が受理されました。よって、あなたは婚約者ビザの申請を始められます」という連絡が来たときは、「え、案外早かったじゃん」とさえ思ってしまいました。
 ちなみにここの請願の受理までの時間ですが、私は運良く早く受理されましたが(これでも非常に早いほう)、かかる人は4〜5カ月、運が悪いと半年以上かかる場合もあります。また、最初に出す書類が足りないと、何カ月も待たせた挙げ句に「不備がありますので、提出し直し」なんて痛い目に遭うこともあります。
 何の書類が足りないかというと、例えば「ほんとに2人が付き合っている証拠(写真や、なれ初めを説明したエッセイなど)をつけなさい」とか。といっても、最初に提出する書式のどこにも「付き合っていることを証明できる証拠や2人で写っている写真を提出しろ」と書いてないんです。そのくせ「書類が足りない、提出し直し」 って、要るなら先にそういうものが要るってどこかに書いておけよな! と思うこと請け合いです。P100


 観光で外国に行くことは簡単だが、
住むために国家の壁を超えることは意外に難しい。
たまたま好きになった人の国籍が違う。
ただそれだけだが、国籍が違う者同士の結婚は、さまざまな問題を引き起こす。

 結婚するのは、同国人同士であれば簡単なことだ。
異国人が同居するのも簡単である。
しかし、国際結婚となると話が違う。
私は婚姻制度にのることに、必ずしも肯定的ではない。
結婚を国家が承認するという法手続きは、私生活に公権力が介入することだと思う。
私生活は私の世界として、公権力が干渉するべきではない。
そのため、法的な結婚つまり婚姻には、距離をとりたいのである。
何も進んで権力に取り込まれることはない、と思う。

 しかし、国籍が違う2人の場合には、事情が違う。
外国人が当該の国に滞在するには、大きな障害がある。
2人が同居するためには、できるだけ法制度にのった婚姻をしたほうが良いと思っている。
それは個人の意思だけでは、国家を超えることは非常に困難だからである。
パスポートやヴィザの非情さは、わが国内にいる限り想像がつかないだろうが、
それがないためにその国に住むことができないのは冷酷である。
国家と外国籍の個人が戦うのは、あまりにも困難すぎる。

 その国に生まれた人にとって、移民局とか入国管理事務所というのは用がない。
ふつうに暮らしていれば、移民局とは無関係に過ごしてしまう。
外国人には、ある意味では警察よりも恐ろしいところである。
とにかく2人は、結婚して無事にアメリカに住んでいるが、よくやったと言いたくなる読後感である。
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参考:
湯沢雍彦「明治の結婚 明治の離婚」角川選書、2005
越智道雄「孤立化する家族」時事通信社、1998
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992年
岡田秀子「反結婚論」亜紀書房、1972
大河原宏二「家族のように暮らしたい」太田出版、2002
J・F・グブリアム、J・A・ホルスタイン「家族とは何か」新曜社、1997
磯野誠一、磯野富士子「家族制度:淳風美俗を中心として」岩波新書、1958
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
S・クーンツ「家族に何が起きているか」筑摩書房、2003
賀茂美則「家族革命前夜」集英社、2003
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書、2001
匠雅音「核家族から単家族へ」丸善、1997
黒沢隆「個室群住居:崩壊する近代家族と建築的課題」住まいの図書館出版局、1997
E・S・モース「日本人の住まい」八坂書房、1970
エドワード・ショーター「近代家族の形成」昭和堂、1987
ジョージ・P・マードック「社会構造 核家族の社会人類学」新泉社、2001
S・ボネ、A・トックヴィル「不倫の歴史 夢の幻想と現実のゆくえ」原書房、2001
石坂晴海「掟やぶりの結婚道」講談社文庫、2002
マーサ・A・ファインマン「家族、積みすぎた方舟」学陽書房、2003
上野千鶴子「家父長制と資本制」岩波書店、1990
斎藤学「家族の闇をさぐる」小学館、2001
斉藤学「「家族」はこわい」新潮文庫、1997
島村八重子、寺田和代「家族と住まない家」春秋社、2004
伊藤淑子「家族の幻影」大正大学出版会、2004
山田昌弘「家族のリストラクチュアリング」新曜社、1999
斉藤環「家族の痕跡」筑摩書房、2006
宮内美沙子「看護婦は家族の代わりになれない」角川文庫、2000
ヘレン・E・フィッシャー「結婚の起源」どうぶつ社、1983
瀬川清子「婚姻覚書」講談社、2006
香山リカ「結婚がこわい」講談社、2005
山田昌弘「新平等社会」文藝春秋、2006
速水由紀子「家族卒業」朝日文庫、2003
ジュディス・レヴァイン「青少年に有害」河出書房新社、2004
川村邦光「性家族の誕生」ちくま学芸文庫、2004
信田さよ子「脱常識の家族づくり」中公新書ラクレ、2001
菊地正憲「なぜ、結婚できないのか」すばる舎、2005
原田純「ねじれた家 帰りたくない家」講談社、2003
A・柏木利美「日本とアメリカ愛をめぐる逆さの常識」中公文庫、1998
ベティ・フリーダン「ビヨンド ジェンダー」青木書店、2003
塩倉 裕「引きこもる若者たち」朝日文庫、2002
サビーヌ・メルシオール=ボネ「不倫の歴史」原書房、2001
棚沢直子&草野いづみ「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか」角川ソフィア文庫、1999
岩村暢子「普通の家族がいちばん怖い」新潮社、2007
下田治美「ぼくんち熱血母主家庭」講談社文庫、1993
高木侃「三くだり半と縁切寺」講談社現代新書、1992
加藤秀一「<恋愛結婚>は何をもたらしたか」ちくま新書、2004
バターソン林屋晶子「レポート国際結婚」光文社文庫、2001
中村久瑠美「離婚バイブル」文春文庫、2005
佐藤文明「戸籍がつくる差別」現代書館、1984
松原惇子「ひとり家族」文春文庫、1993
森永卓郎「<非婚>のすすめ」講談社現代新書、1997
林秀彦「非婚のすすめ」日本実業出版、1997
伊田広行「シングル単位の社会論」世界思想社、1998
斎藤学「「夫婦」という幻想」祥伝社新書、2009
フィリップ・アリエス「子供の誕生」みすず書房、1980

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